09




自棄になってホグズミードのお店で買い漁ったお菓子も尽きた頃、ディアナはセブルスから呼び出しを受けた。
しばらく大人しくしていたのに何だろう、と地下の研究室への扉をノックすれば、「はいれ」とだけ感情の伺えない声が返ってきた。
部屋に入ると、見覚えのあるストールがディアナの目の前に突き出される。


「あ…失くしたストール…」


セブルスが拾ってくれたのだろうかと彼を見上げると、怖い顔をしたセブルスと目が合う。どうやら違うようだった。


「先日、ユニコーンが襲われて血をすすられているのが発見された。その現場にこれが落ちていた」


ユニコーンが襲われることは、原作の知識として知っていた。その現場に罰則を受けにいったドラコが居合わせて、一波乱あったことも ドラコから聞いていて、ああこの時期のことだったのかと合点していたが、自分のストールとそれが全く結びつかない。



「ユニコーンを誘き出すのに使われたらしい」

セブルスの探るような目に気づいて、ディアナは自分が疑われていることに気づいた。先のことで、クィレルと接触があったことは知られている。

「身に覚えは?」
「わたしが帝王に操られている可能性?」

教師として直接聞けないのだろうことをそのまま聞き返すと、セブルスは話がはやいとばかりにたたみ込んできた。



「お前は幼少期に彼の方にお会いしている」

「ナンセンスですわね。ユニコーンを誘き出すならストールでなくても生身で行けばいいじゃないですか。生物の授業でわたしにユニコーンが寄ってくるのは生徒も先生も見てましたわよ」


マルフォイ家としては闇の帝王に与する利点はあっても、ディアナ個人には何もないのだ。家族は大事だが家柄は正直どうでもいいディアナにとって、ヴォルデモートの存在は害でしかない。

ハンカチーフや髪留めが たまになくなることはあったが、まさかストールがそんなことに使われるだなんて思っていなかった。
では先日のクィレルの呼び出しは、ユニコーンを捕まえるのを手伝うように ということだったのだろうか…。予知夢のことも調べ上げて知っていたようだし、ホグワーツの生徒側に味方を滑り込ませておきたかったのかもしれない。


「…教授から呼び出しだなんていうから、試験のヒントでもいただけるのかと期待して来ましたのに」
「茶化すな。…お前ではないんだな?」

「誓って。わたし最初に言いましたでしょ、あなたの力になるって」


なぜそこまで入れ込むのか 検討もついていないだろうセブルスが訝しむ瞳を向けてくるが、ディアナは涼しい顔で微笑み返しただけだった。







頭が痛いことだった。
疑いたくはないが、物が出てきてしまったのだ。この事で彼女が もし危険であればダンブルドアに報告しなければならない。セブルスは内心頭を抱えて呼び出した生徒が訪ねてくるのを待った。しばらくして扉がノックされる。入ってきたディアナに ユニコーンを呼び寄せる餌として使われていた布を見せると、失くしたものであると話した。
その顔色に焦りなどは見当たらない。これについては本当に何も知らないらしい…いや、ディアナは閉心術が堪能で、マルフォイ家の長子として育てられたからか人前でのポーカーフェイスも得意だった。昔から不自然に大人びた子だった。闇の帝王でさえその異様さを気に入っていたくらいなのだから。



「身に覚えは?」
「わたしが帝王に操られている可能性?」

その切り返しに、セブルスはゆっくりと瞬きをした。ブルーエメラルドの瞳には疑われている怒りも、怯えもなにもない。
ただ真っ直ぐにセブルスを捉えていた。「なにを言いたいの?」と。セブルスが教師として直接発言できないことを汲んでいるようだった。


「お前は幼少期に彼の方にお会いしている」
「ナンセンスですわね。ユニコーンを誘き出すならストールでなくても生身で行けばいいじゃないですか」


生物の授業でわたしにユニコーンが寄ってくるのは生徒も先生も見てましたわよ、と いつもと変わらない強気なブルーエメラルドの瞳がきらめく。


「…前から何度か物が盗まれてましたの。ストールも同じだと思ってましたわ」


サラリと盗難について漏らすディアナ。ホグワーツの服務に引っかかるのだが、話が逸れてしまうのでそこは突っ込まないでおく。
ディアナも失くなってしまったものについては気にも留めないようで、言及するつもりもないようだ。


「…教授から呼び出しだなんていうから、試験のヒントでもいただけるのかと期待して来ましたのに」
「茶化すな。…お前ではないんだな?」

念を押すように訊ねると、ブルーエメラルドの瞳が強く瞬いた。

「誓って。わたし最初に言いましたでしょ、あなたの力になるって」



昔からそうだった。この小さな少女はセブルスの肩を持とうとする。それが好意でのものなのか、なにかを企んでのものなのかセブルスには分からないでいた。
それでも 今まで彼女から裏切られたことは一度もない。だからだろうか、セブルスは納得してない割にはその言葉を信じてしまうのだ。
縁といえば幼い頃に閉心術を教えたくらいしかないのだが、今までの人生でここまで手放しに信頼されたことがないーーダンブルドアの飴と鞭は別としてだ。
絆されているのは自覚していたが、ディアナの澄ましたような顔の、可笑しそうに上がっている口の端を見るとそれも悪くないと思ってしまうセブルスなのであった。











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