07 1月も終わりーーまだ身を切るような冷たい風が吹く時期だが、かなりホットな試合だったと思う。飛行術の得意でないディアナでも「この試合は後世でも語り継がれるのだろうな」と思ったほどに鮮やかなものだったからだ。 あのセブルスが監督をして、ルーキーのポッターと ハッフルパフの王子の対決、というだけでも話題性があったのにダンブルドアまで競技場に足を伸ばし、たった10分そこらで勝敗が決まってしまった。 いつもはポッターの飛行に難癖をつけるドラコでも、あの操作技術を見たらなにも言えなくなるのではないかと思ったが、生憎 喧嘩に夢中でそれどころではなかったらしい。試合が終わって観客席でドラコの姿を探していたら、ローブは土ぼこりにまみれ、顔には擦り傷ができていた。 ぶすくれているドラコのローブを叩いてやりながらディアナは苦笑した。大人しく腕を広げてされるがままになっているドラコがまたかわいい。 「ハンサムが台無しよ」 「ウィーズリーのせいだ。野蛮なやつだ…試合中に不意に殴りかかってきたんですよ」 「はいはい、メアリから一部始終は聞いてますよ。喧嘩を仕掛けたのはあなたらしいじゃない」 友人たちが 喧嘩をしている近くで試合を見ていたらしい。わざわざ「弟くんがやんちゃしてたわよ」と教えてくれたのだった。 姉にも所業がバレてしまい、またスリザリンの先輩たちにも目撃されていたことがバツが悪いらしくドラコは俯いた。ディアナはドラコの鼻の頭に絆創膏(魔法界仕様で傷の治りがはやい)を貼ってやって、喧嘩で乱れてしまったシルバーブロンドの髪をやさしくなでる。 「ライバルに勝ちたいのなら、貶すのではなくてドラコ自身が強くならなくてはね」 「ライバルじゃない!」 いつも目で追ってるじゃない、と指摘すれば「あの針金頭と赤毛が目につくんです、ぼくは悪くない」とむくれてしまった。学校に通う前は人前ではクールに澄ましていた弟が、こんなにも感情を表に出すようになったんだなあとディアナは嬉しくなってしまう。 「キャンディいる?」とローブから飴玉を出して見せると、ドラコが口を開けるので小瓶を開けて口に放り込む。ハニーデュークスのキャンディをお気に召したようでむくれっ面もすぐに笑顔になった。 まだまだ子どものままでかわいい弟なのである。うしろで控えていたグラッブとゴイルにもキャンディを分けてあげると、うれしそうに口に放り込んでいた。 日が暮れる頃、ディアナは禁じられた森の入り口に来ていた。空はまだ明るくホグワーツの城を照らしているというのに、森の中は鬱蒼としていて暗い。 耳をすませば 風が木々をすり抜けて葉を鳴らす音とは別に、森に潜む奇怪な生き物たちの声が聞こえてくるようだった。 「呼び出すならもう少しうまくやって下さいな」 ディアナは背後に向かって声をかけた。木の陰からクィレルが姿をあらわした。 ドラコが喧嘩していたことを教えてくれたのは友人たちだったが、その友人たちに「弟が騒ぎを起こしているから姉として注意するように」と伝えたのがクィレルだった。 どこで接触したのかはわからないが、ドラコのローブには魔法のあとが残っていて、それを読み解けば この時間にここに来るように、という伝言になっていた、というわけだった。 「回りくどい…」 「直接接触して、怪しまれても困るのでね」 「セブルスからですか?」 「…君は随分とスネイプ先生と近しいようだ」 その喋りにはいつものような吃りはみられない、とても滑らかなものだった。 「ディアナ・マルフォイ、今回のクィディッチの試合…きみは結果を知っていたね? スリザリン生が賭けをしているのを見たよ、君の一人勝ちだ」 「まぐれですわ」 「ではハロウィンの夜は? 皆が大広間でパニックになっている中なぜきみだけが私を静かに見ていたのだ。それだけではない、きみには偶然では片付けられない幸運も多い」 「日頃の行いがよいからでは」 「いいや、違う。きみは予言者だ」 自分だけが知っている甘い秘密を囁くように、クィレルは声を潜めてその事実を言いきった。 「わたしは…そう、今 大切なものを抱えている。きみがわたしの側に来てくれれば、マルフォイ家にとっても良いことなのではないのかね?」 「それはあなたのバックについている方の? それともあなたの?」 そう問えば、クィレルは声を詰まらせた。 「あなたの思惑なんてきっと帝王は見透かしておられるわ。馬鹿げたことはお止めになったら?」 だってくっ付いているんですものね?あなたのことなんてお見通しですわよ、と反対に囁いてやれば、クィレルは怯えたように仰け反らせた。が、すぐに瞳に攻撃的な色が浮かぶ。 その骨ばった白い手がディアナにむかって伸ばされた時、大きなコウモリのようなシルエットがディアナを庇うように間に入ってきた。 |