04


ディアナが魔法薬学の教室を出ようとしたら、セブルスから呼び止められた。魔法薬学については三年生になった今でもグリフィンドールとの合同授業だったのだが今年も荒れた。犬猿の仲であるのだから離せばいいのに、魔法薬学については一年生の時から繰り上がりで ずっと一緒である。
依怙贔屓したい教授がわざと合同授業にしているのではないかとディアナはにらんでいるのだが、実際のところはしらない。
今日も今日とてウィーズリーの双子のいたずらで、サソリの毒針がはいったカゴをひっくり返すものだからセブルスの機嫌は最悪だった。
そんな時にわたしに何の用かと見上げれば、黒曜石の瞳が気遣わしげにこちらを見ていた。


「先週、クィレルに詰め寄られたと聞いたが?」
「教師陣にまで噂が回ってますの? 教授も案外暇なんですのね」

「何も なかったのか?」


詰め寄られて、はたと思い至る。
これは心配されているのだろうか?
クィレルを帝王の手下として疑ってはいるのだが、証拠を見せないために手が出せない状況なのだろう。セブルスとて同僚を疑いたくないはずだ。
ディアナが一人合点で、曖昧に笑って流そうとすればセブルスは忌々しそうに腕を組んだ。


「実に…閉心術がうまくなりましたな」
「教えてくれた人が優秀だったものですから」
「…クィレルと二人きりにはなるな。いいな?」


お世話かけます、と返せば セブルスは全くだと鼻を鳴らした。

「あ、教授」

話しは終わったのか踵を返して教室へもどっていくセブルスを呼び止める。
trick or treat!と笑えば「馬鹿らしい!」と扉を閉められた。わたしゃボガードかい。







日が沈む頃、例のトロール事件があった。事がおさまった頃にそろりと寮を抜け出して、地下研究室の扉をノックする。
伺うように少し開けられた扉の奥から、不機嫌そうなセブルスの顔が覗く。その僅かな隙間に、ディアナは素早く足を滑りこませた。さぁ 入れてくださいな、と押し入れば部屋には鉄臭いにおいが充満していた。

「これ、マダムポンフリーのところからいただいてきましたの」

懐から薬瓶を取り出して手渡せば、それが今必要な薬だったので、言葉を飲み込んでディアナを招き入れた。


「なんと言ってもらってきた?」
「狼男に扮したウィーズリーの悪戯で、スリザリン生が怪我をさせられて呪いで苦しんでるのでーと言ったら快く処方してくださいました」

人徳ってやつですわね?と言えばセブルスは疲れたようにソファに沈んだ。
貧血もあるのだろう、顔色がいつもより大層悪い。
セブルスが横になっているのをいい事に、そのまま勝手に処置をしていく。
血濡れた下衣を割いてたくし上げると、麻酔魔法と止血魔法を軽くかけてあるようだった。それでも魔法の効きが悪い。
ディアナはアグアメンディで患部を洗って薬を塗っていく。塗った側からシュゥシュゥと泡と蒸気が立つ…解毒をしているのだ。ケルベロスの牙には毒がある。抉ったようにはなっているが、そこまで深い傷ではなかったようで安心した。解毒消毒ができたら、あとは自然治癒に任せる他ない。
保護のために包帯で巻いていると、青い顔のセブルスと目があった。


「随分と手際がいい…」
「知識だけはありますから」


前世の孤児院のこどもたちはよく怪我をしていたから、傷の処置には慣れてしまった。とはいってもこどもが作ってくるような怪我と魔法生物によってできた怪我では勝手が違う。このために三頭犬の知識を頭に叩き込んでおいてよかった。

包帯の端末処理をして、おしまいだ。薬瓶と差し入れの蛙チョコレートをローテーブルに置いて、一息つく。
ディアナが処置できる範囲で本当によかった。


「教授が慌てなくても、どうせ先生方が各自の魔法で罠を張っていらっしゃるんでしょう?」
「……お前が言ったんだろう、闇の者が動くと」

(あ、もしやわたしのせいか)


情報提供に想像力を膨らませすぎて、慌ててしまったというところなのだろうか。それは大変申し訳ない。
むしろセブルスが怪我しない方向で余裕を持って行動できたら…と思っての介入だったので、これは完全に失敗だろう。

落ち込むディアナを見て、セブルスが部屋と服にしみた臭いの消臭魔法と、ディアナの手や汚れたローブに清め呪文をかける。それにディアナは力なく微笑んだ。
手当てのお礼のつもりなのだろう、口では言わないところが彼らしかった。



「もう遅いので寮に帰りますわ」

「夜間にホグワーツを歩き回る生徒は、本来ならば注意せねばならんのだがな」
「あら、昼間のtreatとして見逃してくださいよ」


さっさと行け、とでもいうようにセブルスは手で払う仕草をした。ディアナはセブルスの気が変わらないうちにホグワーツの闇夜に体を溶かすように消えた。











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