一方その頃、





「どういうことだ」


ルシウスがアンブリッジに詰め寄る。
アンブリッジは背もたれの方へとできるだけ身を寄せた。変な汗が止まらないのは間違っても暖炉のせいではない。なんなら指先は緊張のせいで冷たいくらいだ。

つい先日 ディアナ・マルフォイが 就職面接の練習のために外出をして、行方不明となった。連れ出した神秘部職員とともにだ。その時の外出許可を出したのがアンブリッジだったりした。普段ならば寮監督と校長のサインを以って受理される書類を「わたくしが許可を出せば後々有名になり出世するであろうディアナに恩を売ることができ、神秘部にもパイプを繋ぐことができるわ!」とかそういうノリで自分の独断と偏見で取りなしてしまい、そのせいで現在全責任を負っていたりする。つくづく運のない女である。


「現在魔法警察が捜査中です。魔力の軌跡を辿っていますが記録は途中で途切れており…」
「そんなことは分かっている! わたしを誰だと思っているんだ!」


その財力と多方面へのパイプ役として イギリス魔法省をも牛耳るルシウス・マルフォイである。捜査の進捗状況を知らぬわけがない。アンブリッジは ひぃ と小さく声を漏らした。重役であるルシウスの愛娘の失踪の発端となってしまったことも含めて 責任が自身に降りかかることとなる。それはいけない、せっかくファッジの指示でダンブルドアの鼻を明かしてやろうとホグワーツに来たというのに、自分の評価ぎ下がってしまう。降格してしまう。惨めな自分に戻りたくはなかった。アンブリッジは顔色をなくしてぶるぶると震えだした。
埒があかないとルシウスは身を翻して部屋を出た。ダンブルドアに怒りをぶつけるためだ。
警察部隊が調査している中で学校側ができることは少ない。
ルシウスの 主人の手の者かとも考えたが、可能性は低いだろう。「卒業まで待つ」という誓い(ゲッシュ)を交わしているそうだから。共に姿を消したコールマンは反ヴォルデモートで有名だった。ディアナが所属する施設の所長だというので警戒したのも束の間、着実に実績をつんでいく娘に 安全なのだと思ってしまっていた。アイツが黒だったのか。

「なぜ教師も付き添いをしてくれなかった」
「場所を校内に指定してくれさえすれば」

後悔は尽きない。それよりもこの面接の話は年末年始の帰省時にディアナから話しを聞いていたというのに…なぜその時に一言待てと言えなかったのか。過保護すぎるかと下調べをしてやらなかったのか。こんなことなら遠くてもボーバトン魔法アカデミーへ入学させておくのだった。ルシウスはぎりりと奥歯を噛みしめる。
子どもは未来への種子なのだ、と 身分分け隔てなく子どもを保護してくれるダンブルドアの元だからこそ、いけ好かないながらもイギリスに残したというのに。


「お待ちください、Mr.マルフォイ」

黒い男が目の前に躍り出る。
ローブから片手を広げて これより先へ通すまいとするのはよく見知った顔だ。

「セブルス、そこを退け」
「ダンブルドアは現在魔法省に召集され聴取を受けている。校内にはおられないのだ。
あとこれは騎士団のキングズリーの情報だが、ディアナには先の脱獄の件と合わせて 疑惑がかけられている」

「まさか。彼の方は卒業まで手を出さないと、」

「わかっている、主はわたしにもそのように仰られた」


セブルスは声を潜めた。


「ディアナは生きているだろう、対の石が割れていないからな」

そう言って、長身の影で 手のひらから漆黒の磨き石(タンブル)をチラつかせた。セブルスの親指の先ほどの大粒の黒水晶は、水晶ながら光を通さないほどに純度が高い。1つの塊から加工品として2つ彫り出した。対となる存在が割れると、もう片方も割れるように出来ている。
見覚えのあるその黒い輝きにルシウスは顔をしかめた。独占欲ではなく首輪だったという事実と、無事かもしれないという期待が混ざり合って もうどういう顔をしていいのやら。


「もちろん我が君にも報告済みだ。なに、尊敬する先輩殿のご息女があまりにもお転婆なのでね」

スリザリンの寮監も大変でしてね、とセブルスは表情の読めない声で言った。その顔は相変わらず表情というものが削げ落ちていたが、げっそりしていたので 教師としての苦労がうかがえる。
ルシウスは手の平を差し出した。消息の掴めない愛娘の手がかりならば幾らでも積むつもりだ。


「いいや、いいや。ルシウス、譲るつもりはない」
「言い値で買おう。それとも何かね。君が、私のディアナを?」


彼の方の指示により セブルスがディアナを隠しているのかもしれない。そう、学生の頃より術のセンスも良く、目を掛けてきた後輩ではあるが セブルスはどうにも読めない男だ。それ故に彼の方はセブルスをダンブルドアの元に送り込んだが、敵ではないと言い切れるのか。
我が君の復活の際も 悠然と舞い戻り、今も我が君の近くにいる。ベラトリックスほどではないが、それを我が君も許しているのが信じられない。この男がその黒い成りに包容しているものがとても恐ろしいと感じることが増えた。
セブルスにはディアナも大層懐いていた。閉心術の講師を頼むくらいには自分も信用していた。それが、我が君に筒抜けだったなら?
大切な愛娘を隠したのがコイツだったらーー?


「ルシウス、気が乱れている。落ち着きたまえ」


ルシウスの周りに魔力の流れが渦巻いていた。それを見て、セブルスは困ったように眉尻を下げていた。
ーー久しぶりに見た。ホグワーツのでの慣れぬ団体生活で、低学年の頃のセブルスがよくしていた表情だ。ほとほと困ったという顔にルシウスはそっと肩の力を抜いた。



「この守り石はわたしの魔力で登録してしまったからわたしにしか読み解けない。すまない」

「それは、その石は 生死しか分からないのか?」

「いや、危機になると濁るらしいのだが透き通った黒のままだろう。ならば無事なのではないだろうかーーボージン・アンド・バークスで購入したから 精度などはあの店主に言ってくれ」


夜の横丁で贔屓にしている魔道具屋の商品だと聞いてルシウスは顔をしかめた。店内の殆どの商品がガラクタの中 稀に本物が紛れている闇の店。



「校長が帰ってくるまで 待つかね? 紅茶くらいならば出せる」

「いや、用事ができた。急ぎ、ダイアゴン横丁に行かねばならない」

「…。」



横暴でワンマンな先輩の後ろ姿を見送るセブルスはボージンの無事を祈った。この石の魔力をたどってディアナにたどり着く方法などを聞きに行ったに違いない。下手したらボージンだけでなく守り石の製作者や、その手の魔術の専門家まで巻き込んでしまう可能性も視えた気がした。

ルシウスやナルシッサだけではない。
学内ではディアナのクラブに所属していた女子生徒たちが寄り合い涙しているし、談話室の中で一際輝いていた花のような彼女が消えてスリザリンは普段の地下牢めいた雰囲気より、さらに暗かった。
ドラコはドラコでアンブリッジが 魔法省伝ての情報を持っていないのか、と親衛隊に入りゴマをすっているようだが、空振りして消沈している。
皆、ディアナを気にかけていた。

掌の中の黒水晶に視線を投げかけたが、うんともすんとも言わず 水晶の中に暗いファントムを内包した 吸い込まれるような色味を返すばかりだった。








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