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翌日 リビングルームに降りてくると 山のようなプレゼントたちが部屋を圧迫していた。何せイギリス魔法界の名家マルフォイ家である、プレゼントの数も多い。きゃっきゃとリボンをほどく姉弟、それを温かい視線で見守る父母。ーーそこに、黒い客人の姿はない。

昨夜様子を見に行ったルシウスによれば「ホグワーツでの激務の疲れが出た。どこぞのお嬢さまが 外部の施設での研究ではなく、大人しく学内で活動だけで済ませてくれればいいものを…」とボヤかれたとか。そのまま ディアナの進路を心配する両親により お小言タイムに移りかけたその時、タイミングよく知り合いのしもべ妖精が訪ねてきたので その話題はそこまでとなった。娘の進路のことなので言い出し難かったけれど セブルスのぼやきに触発されて口を出したくなってしまったのだろう。朝になってみれば両親ともに何か言いたそうな顔はしているが、口には出さなかったので ディアナは澄ました顔で届いているプレゼントの開封作業へとうつった。その中に濃いグレーの封書を見つけて、手をつける。ナルシッサが小さく息を呑んだ。


「ディアナ、まだ贈っていたのね?」
「ええ 毎年。今年はメッセージカードとキャンディーをお願いしましたの」


ルシウスもその隣で複雑そうな表情で見守っていた。封書の差出人は遠い北海の上にある刑務所 アズカバンである。受刑者に直接届けることはできないため、魔法族の看守が受け取り 手続きをしてくれる仕組みになっている。
ディアナはペーパーナイフで封を切る。おばである ベラトリックスに宛てたクリスマスプレゼントは、この「受刑者への手紙及び差し入れは 適正な検査を受けたのち、確かに受領しました。」という一筆を見る限り 確かにアズカバンへと届いたようである。それが本人に届くかどうかは ディアナの預かり知るところではない。日付けと手続きした看守の名前を満足げに指先でなぞって、ディアナはプレゼントの開封をすすめる。

枯れないように魔法をかけられた花束、
「きみに似合うと思って」というカードが添えられたアクセサリー類、
これからも仲良しでいましょうね、と縋るように詠うクリスマスカードたち、

それらを端に避けて 目当てのものがないのを確認するとディアナはしもべ妖精に「これは処分しておいてちょうだい」と指示を出した。
マルフォイ家のものとして最低限のお返しはするが、関わりのない者に目を掛けても仕方ない。


「ディアナさまっ こちらは?」

ポエナがそのプレゼントの山の中から救いだしたのが、一輪の薔薇だった。濃い紅の、妖しくも美しいそれは ただの一輪だけにも関わらず なぜかポエナの目についたのだった。

「よく見つけたわね、ポエナ。メッセージは受け取ったから それは念入りに燃やしておいてちょうだいね」
「??? はい!」


念入りに燃やせ、というからには何かあるのだろう。しもべとして 自分は主人の指示に従うまでである。
自分のプレゼントたちから興味をなくし、ドラコのプレゼントの内容をからかいだしたディアナの様子に ポエナは「誰か気に食わない人からの贈り物なのだろう」と 真っ先に処分することにした。






とんとん、と扉がノックされる。

セブルスは書き物ーーダンブルドアに宛てた報告書であるーーの手を留めて 紙とインクを魔法で消し、分厚い学術書を さも今まで読んでいましたと言わんばかりに構えた。
今しがた書いていた報告書も本人以外が読めないようにする魔法をかけるとはいえ、情報が漏洩する危険がある。実のところ直接面と向かっての報告が望ましいのだが ヴォルデモートの活動が活発化している今は多忙すぎてセブルスも下手には動き回れない。わざとかそうでないのかは不明だが、ルシウスに家に招かれたともあれば 無碍にもできない。
そんなこんなで、セブルスはこそこそと 光の上司に宛てて 少しの報告内容と 冬休み明けにハリーに閉心術を教えるようにと役目を押し付けられたことへの抗議の手紙をしたためていたのである。


「ごめんあそばせ」
「お前か」


ディアナが片手にカップとティーポットをのせたお盆を持ち、器用に扉を開けて入ってきた。

「お昼も抜くつもりですの?」
「家族団欒の邪魔をするつもりはない」
「客人が遠慮するものではないわ、それにセブも家族のようなものでなくて?」




ディアナが幼い頃からマルフォイ家に出入りをし、ルシウスだけではなくナルシッサからの信頼も厚い。ドラコのことも可愛がってくれている。
きっと原作ではなかった流れなのだ。ここまで リリーのこと以外に踏み込んだセブルス・スネイプは。それを理解していて、それでもなお確認するようにディアナはセブルスに問いかけた。
不本意なのだろうか。懐柔されたのだろうか。どうせなんの色も浮かんではいないだろうとはちらりと探った漆黒の瞳は、予想外に 驚いたように見開かれてこちらを向いていた。

「え、なに? 本当に剥れていただけなんですの?」


家族の前に姿を見せないセブルスに、ルシウスの指示でなにか企んでいるのか もしくは多忙ゆえに他人と距離を置いているだけなのかと勘ぐっていたディアナも、素直に驚いた。仲良し家族にあてられて ただ僻んでいたのだから。
途端にバツが悪そうに目をそらされる。
それにくすくすと笑って、ディアナはポットを軽く持ち上げた。


「ミルクティー? カフェオレ?」
「ブラック」
「空きっ腹に胃を痛めるからダメ。砂糖は?」
「要らん」


杖先でポットを3回突いて、マグに注いでいく。温かなカフェオレの出来上がりだ。ちゃっかり自分のカップにも甘めのものを注いでおく。
カップを2つ持って、1つは文机のところにいるセブルスに。もう1つはベッドに腰を下ろしてディアナが口をつけた。


「ダンブルドアに報告書を書いていたんなら、わたしのことも追加しておいてくださいな」
「なぜ分かった?」
「わたしがクリスマスプレゼントで贈った万年筆が机の上に出ていますし? ペン先が濡れているからさっきまで書いていたんでしょ?」


紙とインクは魔法で消した。万年筆は消しそびれたので 身体の影に隠していたのだが、カップを置く時にちゃっかり確認していたらしい。


「また予知夢を見たのか?」
「いいえ、『向こうが動いたので わたしも罠に掛かりにいきますわ』とでも書いておいてくださいな」

ディアナは 薔薇に付いていたメッセージカードをひらひらと振った。白いカードに金の文字。セブルスに読ませる気はないようでそのままポケットに仕舞われていった。セブルスは置いてけぼりで、2人で話が進んでいるらしい。そしてディアナはまた何かしでかすらしい。
セブルスは痛む頭に手を当てた。


「ナルシッサから圧を受ける 私の身にもなってみろ」
「あら、お父さまじゃなくてお母さま?」
「お忘れですかな? マルフォイ家の猫かぶりのお転婆お嬢様は、今年度いっぱいまでは、私が担当する、誇り高きスリザリンの寮生なのですがね? 子煩悩のナルシッサにどれだけ小言を言われているか」


well well, とディアナがにんまりと笑う。


「最後の最後まで寮監殿には御苦労をお掛けしますわね?」
「本当に。惚れるんじゃなかった」


えっ、今度はディアナがブルーエメラルドの瞳を見開く番だった。


「……セブったら 人が悪いわ」
「お前は、…割り切ろうとしているだろうがな」


セブルスはカップを傾けて中身を飲み干した。
今まで何度となくお茶を飲んできた。プライベートな時間を共に過ごしたのだ。ただの小娘だと思っていたのに、垣間見せる表情や仕草の端々に惹かれていったのはいつからだっただろうか。
いくら精神年齢は高いとは言っても、その体はまだ未成年の魔女だ。必死に抑えていた気持ちを蒸し返され、軽く見られたのではセブルスのプライドも傷が付く。


「さて、何を思って 年頃のレディが 男の褥に腰をおろしているのだね?」









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