イギリスの冬ーー標高の高いホグワーツは特に冷える。寒さは体の末端からじわりじわりと体温を奪っていくし、廊下を通り抜ける風は呼吸のたびに鼻が痛くなるほどだ。 ようやく指先の熱がもどってきたのを感じながら、ディアナはポケットから取り出したハンドクリームを丁寧に塗り込んでいく。この季節は乾燥もおそろしい。高学年になるにつれ、実験系の科目が増えてきて洗い物や手洗いをするために指先のカサつきが目立つ。ページをめくるたびに引っかかって、痛みがあるわけではないが 気がそれてしまう。 もともと冷え性で体の末端まで血が巡らないために 体の代謝が悪いのだ。それは理解しているが取り敢えずはクリームを塗りこむしかない。 「ん、」 目の前に湯気立つマグが ことりと置かれる。中は甘い香りのミルクティーのようだ。 「あら、」 「ふん」 甘い香りの中にジンジャーとシナモンの香りを感じ取ってディアナはセブルスを見上げた。漆黒の瞳と一瞬かち合うが、すぐさまそらされる。 ジンジャーもシナモンも冷えに効く。それに いつもはティカップなのにマグを使っているのは 手のひらで暖をとれるからだろうか、と思い至って ふふ とわらう。 「何だ」 「なぁんにも」 ディアナはふっくりと微笑んだ。 |