「教授、シズオカ産の緑茶が手に入りましたのよ!」

なんでまた緑茶なのか、とセブルスは視線で訴える。ディアナからすれば前世の懐かしいお茶であるが セブルスからすれば異国の飲み物でしかない。

「飲みたかったからですわ!」

興奮しているディアナは勝手にお茶の準備を始める。イギリスの硬水では緑茶に合わないため、水もペットボトルで持参している。抜かりはない。
お湯を沸かしつつ、ディアナがカップをどれにしようか迷っている。ふと思い出したようにセブルスに向き直った。


「寮の掃除用具入れにボガードが住みついたんですけど、あれは教授にお願いしたら? それともフィルチさんに任せたらいいのかしら?」
「まね妖怪? それくらい自分で消してしまえ」

形態模写妖怪ボガードは 対峙した人物が1番恐れているものに姿を変える。その対処法は闇の魔術に対する防衛術や魔法生物学で習うが、自分のトラウマと向き合うことになるので苦手な魔女・魔法使いは多い。ディアナも苦手な口だった。


「嫌ですわよ、ムカデ、ウジ虫、ハエ、大きな蛾…虫って本当に苦手なんですの、おぞましい!」
「ほう…苦手だったのか」
「蝶とかは見てるぶんには良いんですけどね、拡大されると もう…もう…」

ディアナはぶるり、と身を震わせる。
ポットで蒸らしていた茶をカップに注いだ。明るい緑色が目に優しい。甘みと渋みの混じった独特の香りがあたりに舞った。
スリザリンの才女は涼しい顔でオールマイティに何でもこなす。魔法薬学の材料であるコガネムシの目玉や 乾燥ゴキブリなどは平気で扱っているようにセブルスには見えていたので、それはとても意外だった。どうやら材料として見るぶんには平気らしい。
小生意気な この少女にもかわいいところはあるらしい、とセブルスは鼻でわらって 緑茶を口に含む。紅茶と材料は同じであるのにこんなにも風味が違う。清涼感があるのに旨味が舌の上に残る。奥深い味だ。

ボガードは、心の闇を浮き彫りにする。
闇の魔術に傾倒した家系に生まれ、幼少期より闇の帝王に謁見し、稀有な能力をもつ少女ゆえに 深い闇を抱えているのかと思っていたセブルスは安心した。
本当に苦手であるらしい。頭に思い浮かべてしまったのか唇を突き出してくる眉根を寄せているディアナ。クツクツと笑っているセブルスをキッと睨む。

「教授のボガードは何になりますの?」
「…今は饅頭が怖いな」
「もう!『ばかばかしい』!」




後日、皆が寝静まった後にセブルスが退治しておきましたとさ。










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