Lemon
ふあっ、
欠伸をして気が抜けた瞬間にまた花が舞った。ホグワーツに通って魔力のコントロールは学んだからといって 体調が優れなかったり、極度に眠かったりして気が抜けているときは どうしても花が出現してしまう。ぱらぱらと落ちて行く花を尻目に「拾わないとな、めんどくさいな…」とベッドに腰掛けて ネグリジェの袖ボタンを留めていると、先ほどまで会話していたセブルスが一言も喋らないことに気づいた。
よく思えば、香るのは胸を締め付けるほどに甘い百合の香り。
床に散らばった白い花。
「……リリー、」
また、フラッシュバックしたのだろうか。苦しげに歪むセブルスの頭を抱えて、ディアナは彼女の幻影を払うように セブルスの髪を手櫛ですきながら、瞼の上にキスをおくる。
リリーが亡くなって、生き残った男の子が仇を討ってからしばらくたつ。そう、幼い乳飲み子が成人するほどには時が経ったのだ。それでも、セブルスの中の彼女はまだ色濃いままだ。思い出のある香りは それを嗅ぐだけで当時を思い出す。
ああ、なんて、なんて。
「羨ましいことね」
セブルスが思い出の中から戻ってくるにはしばらくかかるだろう。彼に光を与えた彼女には感謝しているが、勝てやしない聖女に悪態をつく。
手を握って寄り添われていることに気づいたセブルスが目を白黒させるまで、あと10秒ーー、