―――――大切な時間

もぞもぞと腕の中で居心地のいい場所を無意識にさがす。
そのたびに触れる明るい髪がくすぐったい。
ようやくいい場所を見つけたのか、動きが止まる。
あいかわらずスースーと寝息を立てている。
起こさないようにそっと髪に顔をうずめる。
シャンプーのいい香りがする。もちろん俺と同じ香り。
そんな些細なことがどうしようもなく幸せに感じる。
タツミに言えば「馬鹿じゃねぇーの」って
返ってくることが予想されるからそれは言わないでおく。
胸元にかかる寝息がくすぐったい。
腕の中で無防備に眠るタツミを見つめながらそっと目を綴じた。

寝心地が悪くて何度か体を動かせばちょうど良くフィットする場所を見つけた。
ゴトーの腕の中の定位置におさまると何故か安心する。
胸元に鼻をすりすりと擦り付けてゴトーの匂いを吸い込む。
もちろんゴトーにわからないように。
腕に包まれてゴトーの匂いに包まれて
こんなにも充足感を感じてるなんてゴトーは知らないだろう。
もちろん言うつもりは毛頭ない。
不意に髪に顔をうずめられくすぐったい気持ちになる。
ふんわりとゴトーの髪からシャンプーの香りがした。
俺と同じ香り。ゴトーと同じ香り。そんなことを考えて慌てて思考を打ち消す。
はずかしい。
でも嫌じゃなくて。さらに充足感で満たされる。
寝たふりをすれば、腕に力がこもり強く、そして優しく抱きしめられる。
こんな些細な時間が
俺にとって…俺たちにとって
幸せを感じる大切な
大切な時間―――――

おしまい



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