じゅうでん

今日もスポンサー様への挨拶で1日があっという間だった。
しかも予定していた時刻よりもかなり遅い帰社だ。
あたりまえだがもうフロントのみんなは帰宅した後だ、達海の部屋の電気もすでに消えていたからもう眠ったんだろう。
そうはいいつつも電気だけ消してテレビやDVDデッキの電源はつけっぱなしっていう事はよくあること。
見回りついでに達海の顔でも見てこようと足を向ける。
ノックはせずにそっと達海の部屋のドアを開けた。
どうやら今日は珍しく全て電源を切って眠ったようだ。
めずらしい事もあるもんだ。
そっとベッドへ近づいて達海の顔を覗きこんだ。
「あいかわらず、可愛い顔して寝てやがる。」
髪にそっと手を触れてそのまま頬へと伸ばした。
ガシッ
「うわっ」
おもわず驚いて大きい声をだしてしまった。
「ニヒヒー驚いた?ゴトー」
「た、達海起きてたのか?びっくりさせんな心臓に悪い。」
「監督の寝込み襲うなんていい度胸だねゴトージーエム。」
「まだ襲ってねぇーよ」
まったく、悪びれもなく言うもんだから怒るきにもなれずに溜息をついた。
「ずいぶん疲れた顔してんねー」
「予定が狂ってこんな時間になったからな」
「ふーん…酒くさいね」
「ああ、無理やり飲まされた、スポンサー様に」
「ははっ、そりゃご苦労さまなこって。……可愛い女の子いた?」
「そーいう店じゃねぇーよ」
達海は悪戯が成功したからか、けらけらとひとりで笑ってる。
ずいぶんと今日の達海はご機嫌だ。テーブルの上を見ればビールの空き缶が5本倒れている。
機嫌がいいというよりはどうやら飲んで陽気になってるだけのようだ。
俺の視線の先に気づいたのか唇を尖らせて達海が言う。
「せっかく一緒に飲もーと思って買ってきたのにお前遅いから俺全部飲んじゃったかんなー」
「すまなかった」
「ゴトーのバーカ」
「仕事だからしょうがないだろ」
「ゴトーゴトー」
「なんだ?」
「ゴトーゴトー」
「だから何だ?」
――コーセー
疲れすぎてすぐには気付けなかった。これは達海が無意識に出してる信号だ。
俺の事を名前で呼ぶ時は達海が甘えたい時。むしろ癒されたいとき。
仕事に詰まったり上手くいかなかったり、そんな日には決まって俺の事を名前で呼ぶ。多分無意識なのだろう。
「せっかく買ってきてくれたのに悪かったよ達海」
「……仕事だからしかたないじゃん。」
唇を尖らせてそっぽを向く達海を抱き寄せる。
「んだよ…」
「少し充電させてくれ」
達海はそっぽを向いて別にいいけどと言ったかと思うと――少しでいいんだ――とぼそりと呟いた。
そんな事を言われてしまえば明日の事などおかまいなしに今すぐ達海を堪能したくなる。
触れるようなキスを何度かすれば自然に深くなっていく口づけ。
癒すつもりが癒されてるなんてしょっちゅうだ。
「んっ……ッ」
息の上がった声で、お手柔らかにねゴトーという達海の言葉を合図にふたり分の重さがシーツの海へと沈んでいった。

おしまい

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