…ただ ミリアリアが怒ってるだけとゆーか…


痴話喧嘩





ミリアリアが歩いている。
太陽の光が真上から降り注ぐ中、大股で街を闊歩している。
その後ろから、声。

「もしもーし」
「…………」

歩幅にして三歩ほど後ろを歩くディアッカの声を、彼女は思いっきり無視していた。


どうやらこの二人、喧嘩中らしい。
というか、ミリアリアが一方的に怒っている。


「きっこえってるー? ミリアリアー」
「…………」
「おーい、いい加減無視すんのやめろよー」
「…………」

と訴えたところで、ミリアリアの態度は変わらない。
眉間にしわを寄せ、不機嫌オーラ絶好調にひたすら歩く。
そんなやり取りを200メートルほど交わし続けたが、さすがのディアッカも痺れを切らした様で、

「ミリィ? ミリアリア?? ……あー、ったく……そんなに耳遠いなら、もっと大きい声で呼んでやるか?! ミーリーアーリー」
「〜〜こんな公衆の面前で叫ぶなっ!!」

――と張り上げたミリアリアの声が、何よりも大きかった。
行き交う人々の視線が、ミリアリアに釘付けになる。

ちょっと――いや、かなり恥かしいかもしれない。

「……えと、あの……」
「なに大声出してんだよ、はっずかいー奴―」

彼女が言いよどんでいると、一番の元凶は、白い歯を見せて笑った。

なんでこいつに笑われなくちゃならないんだろう……そう思いながらもミリアリアは、自分との距離を縮める様歩み寄るディアッカから逃げるように、じりじりと、壁際に足を引いていく。

「……何? その動き」
「だっ……だって……だ……もー、全部あんたが悪いんじゃないの!!」
「だから、ごめんって謝ってんじゃん」
「誠意が無い! 全然誠意がこもってないっ!!」

壁に背をつけ、ミリアリアは首を何度も横に振る。


喧嘩――というか、ミリアリアが不機嫌な理由は――ディアッカ。
ディアッカがデート中に、何かやらかしてしまったらしい。


「ちゃんと悪いって思ってるよ。俺、自分に非が無い限り、謝ったりしねーもん」
「ううん。あんたはその場を取り繕うだけのために、土下座だって出来ちゃう男だもん! 悪いって思ってなくたって、挨拶のように『ごめん』って言えちゃうんだわ!!」

瞳に涙を溜めて睨み上げられ、ディアッカはたじろいだ。
彼女の機嫌は、一体どうしたら直ってくれるのか――考えた末、ディアッカは一つの結論を出した。

「……じゃ、もっかいパフェでも食べに行くか」
「あんた! あんた私が食べ物に釣られる女だって思ってるわね?! 悔しいーっ! 私、あんたに餌付けさせるほど落ちぶれてないわよ!!」

どれだけ悔しがれば気が済むのか、ミリアリアは、壁相手にむせび泣き始めた。
大衆の行き交う大通りで、こんな行動に出るような性格ではないのだが……よほど周りが見えなくなっているらしく。

「もー絶対、あんたと遊びになんて行ってあげないっ」
「……なあ、ミリアリア……」

怒りが鎮まる気配が全く見えないミリアリアを前に、ディアッカはがっくり肩を落とし――そして懇願した。



「頼むから、苺一個横取りしたくらいで、そんなに拗ねないでくれ……」





*前次#
戻る0