[ビターチョコレート]後のホワイトデーは…


ホワイトビター





「良いわよ別に。チョコあげてないし」


と言って、せっかく買ったチョコレートをつき返されたのは、去年の3月14日。思い出深いホワイトデーにしようと練られたディアッカの計画は、彼女の義理堅く、そして照れ屋な性格が災いし、出だしで蹴っ躓いてしまった。
あれから一年。ディアッカは燃えていた。
今年はちゃんと、チョコを貰った。

今年は大丈夫。

そう信じて、お日様がまだ空の頂点を通過しない頃合に、彼はミリアリアの家の呼び鈴を鳴らした。しかし何度鳴らしても、家主が現れる気配は無い。

「……出かけてんのか?」

顔を曇らせ、メールを打ってみる。すると、数分経ってからようやく返事が返ってきた。


〈今、仕事中〉


短く一言。
つまり、ディアッカのメールに構ってられる余裕はない、ということで。

「だあああっ、マジかよ〜〜っ」

へたへたと座り込み、ディアッカは大きく気持ちを吐露する。
冗談めいてだが、ホワイトデーは楽しみにしておけよ、とか言っておいたのに……こんなことなら、正式なアポをとっておけば良かった。

「……どーすっかなー……」

去年は、本人を前に撃沈。
今年は、本人にお目にかかる前に終わってしまった。
一日中デート計画、脆くも崩れ去る。

「……なぁんか、俺ばっか暇人みてぇ……」

言ってはいるが、実際――ディアッカは全くもって暇人ではない。
今日だって、無理を言って休みをもらったのだ。今日を逃せば向こう一ヶ月、大した休みはもらえない。
それでも、ホワイトデーだから。
バレンタインに、チョコを貰ったお返しの日だから。

……ミリアリアに、とことん楽しんでもらおうと思ったから……

ぽつり、ぽつりと雨が落ちる。
小さな小さな、雨の雫。
まるで、空が泣いてるよう――

「って、詩人か俺は」

浮かんだ言葉に、ディアッカは嘲笑しながら首を振る。


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