地球に下りた日の事を思い出すディアッカと――


白いスタートライン





ぬける様な青い空。吸い込まれそうな青い海。
甲板の上、腰を下ろすディアッカは、そんな自然溢れる風景を前に、浮かない顔をしていた。

頭によぎる、初めて地球に下りた日――

何故こんな日に、あの瞬間を思い出すのだろう。
あんな――歯痒くも悔しい思い出を。

「――見つけたっ!!」

後ろから、息を切らせたミリアリアの声が聞こえる。しかしディアッカは振り向かず……応えることもしなかった。

「こんな所で何してるのよ! みんな、探し回ってるわよ?!」
「……ああ」
「……?」

ディアッカの様子がおかしいことに気付き、ミリアリアは数歩、彼に近づく。

「どうしたの? 何かあった??」
「いや……ちょっと、思い出して」

寂しそうな瞳で、ディアッカは振り向き、

「地球に下りた日のこと」
「ディアッカ……」

こんな……こんな日だった。地球に下りたのは。
自分の意思ではなく、重力の影響で戻れなくなって。

とにかく悔しかった。
たった一隻の戦艦を沈めることも出来ず、成す術無く、彼は地球に落とされたのだ。

ミリアリアも思い出す。
ディアッカが地球に下りたのは……ヘリオポリスが襲撃を受け、彼女達がAAに乗って地球に下りたのと同じ、あの戦闘の時だ。フレイがアークエンジェルに残ると言って、自分達も残る決意をして……結果、ミリアリアは今、生きている。
アークエンジェルを離れ、シャトルで逃げる道を取っていれば、彼女は今頃、宇宙の藻屑だ。
どちらにしても、苦い記憶――

「地球に落ちて、バスターから降りて……初めて地球から宇宙を見た時の事、思い出した」

とても悔しい思いをして、やり場の無い怒りを抱えながら、コックピットを出ようとした彼を待っていたのは……ぬける様な青空と、深く吸い込まれそうな青い海だった。
プラントでも、そんな光景は見られる。
しかし所詮、造り物。本物を初めて見て、身体で感じて……不思議な感覚が、ディアッカを襲った。

言葉では表せない感情――

たった一枚の風景で、そんな思いを抱いてしまったこと自体に腹が立った。

「悔しいけどさ……奇麗だと思ったんだよ、地球って」
「今も悔しいの?」
「まさか」

彼はかぶり振る。



*前次#
戻る0