秘密の二人


秘密の二人






その日、ミリアリアはザフト本部まで取材に来ていた。
――もとい、取材という名目で、遊びに来ていた。

ナチュラルのジャーナリストが軍事施設本部入りを許可されるとは、何と開放的になったことか……と手のひらを返したような上層部の方針を冷ややかな目で見ながらも、ディアッカは、態度の軟化を歓迎している。
彼としては、仕事中でもミリアリアに会えるのは嬉しい事……なのだが。

嬉しいこと。
心は喜びにうち震えて……いるはずなのに。

彼の顔は、歪んでいた。
ひどく面白くない顔で、談笑するミリアリアを眺めている。
本部食堂、テーブルにお茶会セットを広げ、向かいに座るは、なぜかイザーク。彼もまた――非常に珍しい事に――穏やかな表情でカップを口に運んでいて。

ゆえにディアッカは荒れていたが、ディアッカ以上に荒れている人物が、彼の背後で蠢いていた。

「な・ん・な・の・よ、あれは〜〜〜〜っ!!」
「シホ……そ、それ以上、絞め、たら…殺人罪で、牢屋行きだ、ぞ……?」

それは、シホ・ハーネンフース。
後ろから、怒髪天のシホに首を絞められ、とても苦しかったのだろう。ディアッカは脂汗を滲ませながら、手を退けるよう訴えた。


しかし、シホは全く聞く耳を持ってくれなかった。


「あれ、あんたの彼女でしょ? 何で隊長と仲良し子良ししてんのよ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
「だからっ、首っ! くびしまっ…………だああっ! くるしーっつーの!!」

いよいよもって耐えることの出来なくなったディアッカは、持てる全ての力を使い、シホを振りほどいた。すると、彼女は目を見開くほど驚き……怒りのオーラを色濃くする。

彼にとっては、ごく自然なことでも、シホにとっては理不尽極まりない行動だったようだ。

「もっと絞めさせなさいよ! あんた、あの子の恋人でしょ?!」
「無茶言うな! 確かに俺らは相思相愛、誰もが羨むバカップルだが、なんでミリィがイザークと仲良くしてるだけで、お前に絞め殺されなきゃなんねーんだよ!!」


だんっ!


本人が聞いてたら確実に反論が返ってくるだろう主張を、ディアッカはテーブルを思いっきり叩きながら、きっぱりはっきり言い切った。
彼の話は筋が通っている。恋人が友人と話しているだけなのに、その友人に恋い焦がれている同僚に、命を奪われる――……笑い話にすらならない。

それでもシホは譲らなかった。

「馬鹿ね。私が、そんな加減を知らないわけないじゃない」

真顔で。

「寸止めで勘弁してあげるわよ」
「十分性質悪いわっ!」

だんっ! と響いた二度目のテーブル叩きは、ディアッカの拳を少しだけ赤い色に染めた。
心持ち……心持ち、腫れている。

「うわ、自分で自分痛めつけてるー……変態?」
「お前のせいだろっ!!」

彼が怒った時、鬱憤を即座に晴らせる物をこの場で探したら、どう考えてもテーブルしか見つけられない。
それゆえ、彼は半ば条件反射で、三度拳を叩きつけた。


ディアッカは――ちょっとだけ、涙目になっていた。


「……あんた、本物の馬鹿ね」
「うっせぇ……」

四度目は……我慢する云々の前に、痛みで拳が動かなかった。


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