大切なことなのに、頭から抜けていた。


もうすぐバレンタインが終わる――




バレンタインの夜に





「……あーあ。ついてないなー……」

ミリアリアは、とぼとぼと夜道を歩きながら、視線を下に落とした。
2月14日。聖バレンタイン当日、あげる相手がいながら、彼女は未だ、チョコを渡していない。

「……違うか。自業自得、って言うんだよね」

それとも少し違う? なんて呻く足取りはとても重く、今にも止まってしまいそう。
今日、ディアッカに会った。用事があって、夕方に待ち合わせをして、食事も一緒にした。でも、チョコをあげることは無かった。
思い出して、はあ、と大きなため息をもらす。

故意に渡さなかったわけではないのだ。
渡したかった。願わくば手作りのチョコを、不格好でも自分の手で形作った物を、彼に手渡したかった。
出来なかったのは――



「何で私、記念ゴトに疎いのよ……」



――忘れていた。単純に、頭から抜け落ちていた。
自分のアホさ加減に、ただただ落ち込む。


あの時、夕食を二人で食べた時、ディアッカはどう思っただろう。さすがに期待したんじゃないだろうか。
まさか自分同様、バレンタインを忘れていた、なんてことは……

「……ないんだろうなー……」

本日何度目かの、とてもとても大きなため息。
あの鬱陶しいくらいマメな男が、バレンタインを忘れたりしない――そんな思いが表現されて、


「……でさ、お前は何回ため息つけば気が済むんだ?」


声は、後ろから聞こえた。

夜道。

街灯のともる大きな通りを、一人でミリアリアは歩いていた。
ディアッカとの夕食を終え、それからずっと一人で行動していたはずなのに、なぜか、




なぜか背後に、ディアッカがいる。




「……あ、んた、何やってんの?」
「や、送ってこうと思って」

訳の分からない言い訳を、ディアッカは平然と言ってのける。

「けどさ、いきなり走り出すしよ、どこ行くかと思えば洋菓子売ってるとこハシゴしまくり……おかげで声かけるタイミング完全になくしちまって、今に至ると」

平然と。ただただ平然と、それが当たり前のようにディアッカは言った。
白い吐息が奏でる、自分の迷走。


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