恋人が突然、恐ろしいほど尽くしてくれたら…


恐い。
その時、自分が抱く感情を表そうとしたら、「恐い」という表現が一番的確だろう、とミリアリアは確信していた。

恐い。そう、これは恐怖心だ。

別に、命の危険があるわけではない。
かと言って、獰猛な動物を前にしているわけでもない。
さしあたった危険性は、一見するだけでは、見当たらないのだ。

ここは家。しかも落ち着き、紅茶なんてすすれる状況なのだから。

それでも彼女は恐かった。
目の前でニコニコするディアッカは、彼女に、抑えきれない恐怖心を与えてくれた。





君に胸キュン☆






何が恐いって、ディアッカが恐い。

突然連絡も無しに遊びに来たかと思えば、あとはもう、恐怖の連続。

例えば、喉が渇いたと言えば、水が出てきて。
小腹が空いたと言えば、お菓子を買ってきてくれて。
洗い物片付けなきゃと言えば、率先して片付けてくれるし。
肩がこったと訴えてみたら、マッサージをほどこしてくれたり。
試しに「マニキュア塗ろうかな……」と呟いてみたら、なんとディアッカ自ら色を選び、塗ってくれる始末。

最初は、甲斐甲斐しく尽くしてもらって、色々楽だなあ……と思っていたのだが、こうも続くと……


〈……まさか……〉


ふと、ある疑惑がミリアリアの頭を過る。
いやまさか。ディアッカに限って、そんなことは――……


無い、と言い切れるだろうか。


「…………」
「なんだ? 恐い顔して」
「あんた……」

小さく一言、切ってから。



「……もしかして、浮気した?」



あるはずないと思いながらも、気付くと彼女は、頭に浮かんだ疑問をストレートにぶつけていた。




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