ミリアリアが思い出す人…



温泉効果






かぽーん。

「ふうー……」

立派な岩造りの温泉につかるミリアリアは、とても幸せそうに息をついた。
なぜアークエンジェルに温泉があるのか、誰が何のために造ったのかは――あえて聞いていない。

「きもちー……」

湯に身をあずけ、目を閉じる。
すると、何とも不思議なことに、どこからともなく少年の声が響いてきた。




「お前、温泉をバカにするのか? あれはいいぞ。きもちーし、疲れとれるし」




――ちゃぽんっ!

思わずミリアリアは、口まで湯に沈めてしまった。

顔が赤いのは、お湯が熱いからではない。
思い出してしまったから。

ぷくぷくぷく……

狭い空間に響くのは、自分の口から出る息が、お湯とぶつかって生まれる衝撃音だけ。
他には何も無い。

何も。


「えー? 温泉なんて、年寄りくさいじゃない」
「そぉか? のんびり出来るし、特に岩風呂なんていったら、情緒もあって最高じゃんか。俺は好きだな」
「……そんなこと言われても、わたし興味ないし」
「さいですか」


一度だけ、そんな会話をしたことがあった。
たった一度の、他愛も無い話だったのに……

戦争が終わって数ヵ月後、ミリアリアは家族で温泉旅行に行った。生まれて初めて入った温泉は、見事に「年寄りくさい」イメージを払拭してくれたが、代わりに全く別種の問題が生じてしまった。


――脳裏に響く彼の声――


あれから何度目の温泉だろう。何度入っても……いや、「温泉」という言葉を聞くだけで、彼の声が降って来る。


もしここに、あの少年がいたら。
二年前と同じように、この戦艦に乗っていたら――

「……あのバカ」

リアルに想像できる彼の行動に、文句なぞ言ってみる。

もし二年前、アークエンジェルに温泉があったら、本当に起こり得たかもしれない光景。
……そう、二年。たった二年前、彼はこのアークエンジェルにいた。

今は――遠く離れたそらの上。

「ディアッカ……」

声に出して、頭にその姿を思い描いて。

「……会いたいな」

誰もいない事を良いことに、紡がれるは彼女の本音。


――たった一つの、大きな願い――




-end-

結びに一言
温泉に入ってディアッカさんを思い出すミリアリアさん。

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