運命中盤辺り/アスカガを思うディアミリで



憂いの華






「……このままで良いのかな」

ミリアリアはつぶやいた。
その視線は、モニタに向けられている。

《って言われてもなあ》

モニタの中にいる男は、ため息と共にうめいた。

《どーしよーもないじゃん》
「どーしよーも無くないわよ!」

思わずミリアリアは、声を張り上げてしまった。
瞳には、悲しみが浮かんでいる。

「だって、カガリが可哀想……」
《でもなあ……》

彼は金色の髪をくしゃくしゃとかきながら、天を仰いでしまう。

「ねえ、ディアッカ……少しは真面目に考えてよ……」
《真面目に、ねえ……》

ディアッカは腕を組み、画面の奥にいる仏頂面の少女を見た。


ミリアリアがアークエンジェルに戻った。
これはまあ……反対しても仕方ないことだから、置いておこう。
そんな彼女がアークエンジェルから――それはそれは素敵な偽装工作を用い、プラントからと見せかけて、ボルテールに通信回線を繋いできた。多分、あの偽装工作はキラ仕様だろう。でなければ、さすがに回線を繋げたCICが気付くはずである。

プラントの知人からと思えば、現れたのは私服のミリアリアで、しかも何の用かと思いきや――


《……やっぱさあ、軍用回線使って、恋の悩み相談は……》
「文句あんの?」
《……いや、ないです》

ギロっと睨まれ、ディアッカは小さくなってしまう。

彼女が持ちかけたのは、悩み相談。


カガリと、アスランの――


「聞けば、アスランてば、カガリに黙ってザフトに戻ったって言うじゃない……全く、何考えてるのよ、あの人」
《…………そりゃあ、また……》

アスランに「戻れ」と説得した片割れであるがゆえか、ディアッカの目が若干泳ぐ。
若干。
とても小さな乱れゆえ、ミリアリアは気付かない。

「ひどいわよね。指輪まで渡してたのに……」
《ああ゙?! 指輪?!》
「そ。カガリ、大事に薬指にはめて……もう! やっぱりあの時、一発ぶん殴っておけば良かったわ!」
《あの時――って、お前、アスランと会ってんのか?!》

あの堅物が指輪を送った――それだけでも驚愕の事実なのに、続いて出た発言に、ディアッカは身を乗り出してしまった。


ミリアリアが、アスランと会っている――


「偶然だけど……何? そんなに怒って」
《――んでもねえ》

ディアッカの態度に、ミリアリアはキョトンとしてしまった。
彼も、さすがに言葉を濁す。
言えないだろう。まさか、知人が彼女と会ったことに軽く嫉妬してしまった……など、独占欲が強いにもほどがある。

《……まあ、アスランにも事情があったんだろ》
「だけど……」

ミリアリアは瞳を伏せ、つぶやいた。

「待ってる人が帰って来ないって、辛いよ……」
《…………》

きっと彼女は、自分とカガリを重ね合わせているのだろう。

昔彼女が愛した男は、戦闘機に乗って散ってしまった。
今彼女が愛している男は、遠く離れた宇宙の上。
こうして連絡こそ取り合っているが、最後に会ったのは……ディアッカがザフトに戻った別れの日。それ以降、二人はモニタ越しでしか、互いの姿を確認出来ていない。

《俺も……人の事ぁ言えねーな》
「……あんたは、戻るつもりで帰ったんじゃない」
《でも、お前のこと放ったらかしだ》

確かに彼は、ザフトに戻ると言って、プラントへ渡った。
和平の道を模索するためにプラントに渡り、そのまま何の連絡も無く復隊したアスランとは全く違う。

だがディアッカの中では、大差の無いことらしい。

《ごめんな》
「良いよ……迎えに来てくれるんでしょ?」

ミリアリアは優しい微笑を見せた。
ザフトに戻ると言った時、ディアッカはちゃんと約束した。

必ず迎えに来ると。
今は無理でも数年後、プラントがナチュラルを受け入れられるようになった時……その「在るべき未来」を作るために、彼は祖国に戻ったと言っても過言ではない。

「……でも、カガリにそんな約束はないの」

ミリアリアは嘆く。

「今、そんなこと言ってられる時期じゃないって、分かってるけど……この二年間、カガリを一番に支えてたのは、間違いなくアスランなの。そんな彼が突然居なくなって、戦場で再会して……」
《お姫さんに対する、あいつの本音……か》

ディアッカは嘆息ついた。
彼はいつも、本音を口に出さない。全て一人で抱え込もうとする。

また、悪い癖が発動しているようだ。

「何とか、連絡取れないかな」
《ま、うまく立ち回ってみるわ。で……もし、会わせられる様になったら……お前もお姫さんと一緒に行動するよな?》
「その、つもりだけど……なんで?」
《会えねーかな、と思って》

出汁に使う様で心苦しいものもあるが……逆に言えば、絶好のチャンス。
二人が触れ合う、またとない機会の到来だ。

「……アスランとカガリの仲直りが目的なんだけど……」
《ついでに俺らのスキンシップも入れようや》
「何ソレ」

言うミリアリアは、笑っていた。
純粋に嬉しい。
想われてる現実が……彼女を安心させてくれる。

だから、カガリにも。
カガリにも安心してほしい。

《大丈夫だ。上手くいくさ》
「……うん」

仲直りしてほしい。
二人の仲の良さを間近で見た事のあるミリアリアは、切に願った。
どうかもう一度、あの頃の二人を見たい、と。

たとえもう一度引き合わせることが出来たとして……上手くいくのか。

未来に一抹の不安を抱えながら、それでも彼女は希望を持った。


憂いの華は、友を想う。


これ以上、悲しんでほしくない、と――




-end-

結びに一言
まあ、細かいことは気にしない方向で(笑)

*前次#
戻る0