49話より。あの裏ではディアミリ会話があることを熱望。



幸せ一粒






レクイエムの中継点が破壊され、艦内に歓声が沸いた。
中継点が無くなれば、レクイエムは曲がらない直線射撃となる。これで、あの恐怖の兵器がすぐ様発射されることは無くなった。
あとは議長の思惑を阻止するだけである。

それが……一番難しいのかもしれないが。

「…………」

ミリアリアの心もまた、複雑な心境にあった。
レクイエムを破壊できたのは……ザフトに籍を置くジュール隊の力添えがあったからである。
そう、ジュール隊なのだ。かの小隊は今や、アークエンジェルやエターナルとともに行動している。


――ディアッカも一緒に。


「気になるなら、通信かければ?」

声は後ろから響いた。
チャンドラだ。彼は席から身を乗り出し、ミリアリアを見ている。

「気になるって……」
「エルスマンのこと。気になるんだろ? 開戦からこっち、まったく連絡とって無いんだし」
「別に――」

声を荒げたミリアリアだが、顔をそむけて考えて、もう一度、チャンドラに目を向ける。

「……ディアッカとは別に……何の関係も……」
「フッたから?」
「…………」

返す言葉もなく、口を尖らせるミリアリア。
その表情を見たチャンドラは、思わずディアッカに自慢したくなった。
コロコロ変わるミリアリアの表情は、彼がとても大好きなものだから。

「でも、私的なことに軍用回線使っちゃ……」
「無事な姿確認するくらい、良いんじゃないの?」
「……そんなこと、言われても……」

ミリアリアは迷った。
顔は……見てみたい気がする。でも、彼をフッて大分経つし、なに話して良いのか分からないし……何より気まずくてやってられなくなりそうだ。
だから彼女は、連絡は取らないと心に決めた。心に決めて――

「……入電?」

突如外部からアークエンジェルに繋がる通信回線。開くと現れたのは銀髪の青年だった。
彼は一瞬、顔をゆがませ、

《こちらジュール隊のイザーク・ジュール。そちらの艦長と、話がしたいのだが》
「はい――艦長、入電です――」

と言って。


〈――ジュール隊?!〉


ディアッカがいるジュール隊の隊長……それが彼、なのだが。
彼の反応がとても気になった。
ミリアリアを見るなりしかめっ面を作ったイザークは、用件を伝えた後も、何か言いた気に、彼女に熱視線を送っている。

「……あの?」
《貴様、なぜそこにいる?》

出てきたのは、これまた不可解な言葉。
今日初めて出会った人間に、どうしてアークエンジェルに乗っている理由を問われなくてはならないのか。

《このコードに回線を繋げ》
「は?」

突然画面に出される電子コード。それは通信回線を繋ぐ数字の羅列だった。

《さっさと繋げ!》
「え? あ、はいっ!」

怒鳴られ、ミリアリアは思わずコードを打ち込んだ。その最中、メインモニタにイザークの顔がでかでかと映し出され、マリューが通信機越しに話を始める。
艦長と隊長の会話が耳に届くが……それは脳にとどまらず、反対側の耳から通り抜けていった。
多分、画面越しの男も同じ現象が起きていることだろう。二人とも、驚きのあまり目を見開き、固まってしまっている。

メットをかぶっていても分かる。
画面に現れたのは――ディアッカだった。




《み、りありあぁ?》

出せたのは、そんな間抜けな声だけ。
そりゃそうだろう。突然映像回線が開いたと思えば、そこに戦場にいるはずの無い人間が現れたのだから。
しかもしっかり軍服まで着こんで。

《お前、いつの間に……ええっ? カメラマンじゃなかったのかよ!!》
「カメラマンよ! 今ちょっと、オーブ軍在籍の身だけどっ!」

久しぶりの対面だというのに、反射的に、ケンカ腰になってしまう。
だが――悪い気はしない。むしろ普通に言葉を返せた事が嬉しかった。

《今ちょっとって……軍人って、そんなほいほいとなれるもんじゃ……》
「仕方ないじゃない。人手不足なんだし、私だって、みんなを守りたいし」

話題が無いだの気まずいだの……悩むだけ損だった様だ。
目の前に、ディアッカがいて。
自分もちゃんと、笑顔でいて。

思い出す二年前の戦争。
あの時、二人は会って話すことよりも、こうやって……モニタを介して話すことの方が多かった。

あれはあれで……楽しかったな、と今では思う。

そんな思いを巡らせている内に、後ろから覗き込んでいたチャンドラが、ディアッカに話しかけた。

「よっ、エルスマン。元気そうだな」
《二世! あんたも復帰組かよ?!》
「あんたも、も何も……こっちはほとんど復帰組構成だぜ? お前もこっち来たらどうだ?」
《そりゃ、さすがに無理だろ》

冗談めいた言葉に、ディアッカはあっさり首を横に振る。
笑いながら。
無理と言われて、ちょっとだけミリアリアの心に痛みが走った。


〈……当たり前の、ことじゃない……〉



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