44話レクイエム発射直後のミリィ&メイリン



思いっきり泣いた後は






その時、ミリアリアの目の前は、真っ白になった。


嘘でしょ? 何かの間違いよね……??


でも、モニタに映し出される映像は、作り物ではなく、今実際に起きている悲劇。

プラントが――攻撃された。
レクイエムという哀しい閃光により、都市の一部は崩壊してしまった。

不安が身体を支配する。
恐怖で動けなくなる自分を叱咤して、情報収集と休憩中にマリューに報告。
一通りやるべき事を済ませた後――彼女の精神的疲労は、限界に達した。
心の疲れが、身体に襲いかかる。足はふらつき、支えを求めて壁に身をあずけ……重い頭を手で押えた。
目が開かない。


暗い世界。
浮かぶ思い出。


彼は――無事だろうか。

ミリアリアに、プラントの詳しい地名は分からない。レクイエムで破壊された都市の名前を聞いても、ピンとこないくらいだ。
だがそこに彼が……ディアッカがいないという保障はどこにもない。戦闘に出ていた可能性すらある。
戦いの最前線にいたって、なんら不思議の無い男なのだから。

「あいつ……」

無事なの?
心の中で問いかけた時だ。

「ミリアリアさん?!」

背後から、声が聞こえた。


〈……この声……〉


――メイリンだ。そう思いながら、ミリアリアはなんとか振り返った。
振り返って――目を見開く。

「大丈夫ですか?! どこか、具合でも……」

ふらふらの身体を支えようと、ミリアリアの身体に手を伸ばすメイリン。
そう、メイリンだ。
流れる赤い髪。華奢な体つき。どこをどう見てもメイリンなのに……

「……ッカ??」

口に出たのは全く別の、男の名。

「ミリアリアさん!!」
「……大丈夫」

メイリンの呼びかけに、ミリアリアは力無く答えた。
どうかしている。
ただ……モルゲンレーテのジャケットを着ていただけで、ディアッカの名を出すなんて。
いつから自分は、そんなに弱い人間になったのか。

「ちょっと……混乱してて――」

そこで、言葉が止まった。
改めてメイリンの顔を見て、気が付いたのだ。
彼女の目尻が、赤く腫れてしまってる事に――

「あなたこそ……大丈夫なの?!」
「え? ああ、大丈夫ですよぉ」

明るく言ってみるが、覇気は無い。
彼女は、ミリアリアとは違う。
ミリアリアの場合、心配元のディアッカは、どこにいるかも分からないザフトの一般兵にすぎないが、メイリンは……プラントで生まれ育った、コーディネーターなのだ。

「ただちょっと……あそこ、友達が住んでて……」

小さく笑いながら、襟足に手をやる。

「なんか、絶望……っぽいんですよね、みんな……」

瞳に涙がたまる。
きっともう、ずっと泣いていたのだろう。
たった一人で、誰にも気付かれないように。

「もう、無いんですね、あの街も……みんな、いなくなっちゃって……」

彼女の大切な人は、大切な場所は、一条の光によって失われた。

「もうっ……!!」
「メイリンっ……」

涙が零れ落ちる。
ミリアリアから。
メイリンから。

「ごめん、なさい」
「どうして謝るの?」
「だって、こんな……わたし、軍人なのに……こんなことで、泣いてちゃいけないのに……」

ザフトで軍事訓練を受けたメイリンにとっては、恥ずべきことなのかもしれない。
人前で、涙を流すことは。
……だが。

「そんなことないよ」

ミリアリアは言う。

「大切な人を亡くして悲しいのは、当たり前のことなんだから」

二年前、彼女も味わっている。あの空虚感を。
突然いなくなってしまった、大切な人。
そしてまた自分は……大切に想っていた人を、失ったかもしれない。

「悲しくて泣くのも、間違いじゃないわ」
「――ッ!!」


轟くは、悲鳴。
叫びにも似た……泣き声。
悲しい哀しい、残された者の嘆き。


ミリアリアの胸に顔をうずめ、メイリンは泣いた。
声を上げ、思いっきり。
瞳から一筋の雫を流しつつ、ミリアリアは彼女の頭をなでる。

「……ね、メイリン」

優しく、声をかける。

「思いっきり泣いた後は……とびっきりの笑顔でいようね」
「……はい」

悲しいから、泣く。
ならその悲しみを、涙に託して。
悲しみは全て、涙に引き継いでもらって。



思いっきり泣いた後は、とびっきりの笑顔で。
それは、自分の心を強く持つために。

負の連鎖に、負けないように――




-end-

結びに一言
メイリン熱、抑えきれず(爆)

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