つらくなったら、君に会いに行こう。





やどり





「……そんな所でしゃがみ込んでると、仕事の邪魔よ」

決して広いと言えないAAの備品庫の端っこで、ミリアリアはいかにも不機嫌そうな声を上げた。

足元にいるディアッカに向かって。

なぜ彼がこんな所で体育座りをしているかなんて分からないが、備品整理にやってきたミリアリアにとっては、邪魔以外の何者でもない。
何せディアッカ、図体と態度だけは人一倍でかいのだから。

だがディアッカは、ミリアリアの声に反応を示さなかった。
おかしい。いつもなら、人の言葉に一喜一憂する彼が、こんなにも無反応だなんて。

「……ディアッカ?」
「……あ?」

揺さぶって、もう一度声をかけ、ようやく彼は顔を上げた。生気の無いその顔を。

「……なんて顔してんのよ」
「そんなに変な顔してる?」
「すごく」

まいったな――という響きは、小さすぎてミリアリアには届かなかった。顔を隠すように手で覆い、再びうつむいてしまう。

「……なんかあったの?」
「……うーん……」

考え、言いよどむ。

「……ここなら誰も来ないと思ったんだけどな」
「は?」

返ってきたのは、想定外のものだった。

「やっぱ部屋の方が良かったか……でもなー、フラガのおっさんとか、予告無しに入ってくるからなー」
「……何言ってんの?」

眉をひそめ、ミリアリアが言う。
なんというか……会話が成り立っていない。

「俺ってさ、落ち込んでるとこ、見られたくない性質なわけよ」
「でしょうね」

ミリアリアは思ったことをきっぱり言い放った。
自分も落ち込む姿は見られたくない方だが、彼は自分など比にならないほど、そういう傾向があると感じていた。

メンデルでの攻防戦の時でさえ、ディアッカは何でもないフリをしたのだ。
あんなに落ち込んでいたのに。

「だから人の来ない所でうじうじしてたの?」
「うじうじって言うなよ」
「うじうじしてるようにしか見えないわよ」

同時に大きなため息が出た。

「……大丈夫?」
「……そーゆー月並みなセリフ聞きたくないから、一人でいたんだよね」

小さいが、しっかりと放たれた。

ミリアリアは目を見張る。

それは拒絶の言葉だ。
ディアッカに拒絶されるのは初めてで、ミリアリアは固まってしまう。
用事だけ済ませてさっさと戻ろう――そう思った時だ。
くいっ、と服を掴まれ、

「……でも」

ディアッカと目があった。
救いを求めるような寂しい目がミリアリアを射抜く。

「あんたに言われンのは悪くないかな」

言うなりディアッカは、ミリアリアを自分に引き寄せた。

「これはどんな嫌がらせ?」
「……一応、甘えてんだけど」

首筋に顔を沈めながら囁くディアッカの腕は、小刻に震えている。
あーあ、とミリアリアは、心の中でつぶやいた。
なんだかんだ言って、自分はディアッカに甘いなあ、と。

「備品整理手伝ってよ?」
「言われなくとも」

優しい人。暖かな世界。
彼女こそ俺の、唯一雨をしのげる場所――




-end-

結びの一言
雨=つらい現実。雨をしのぐ場所=安心できる場所ってことで。

お題配布元→ディアミリストに30のお題


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