「……笑えたよ」
彼女は、かすれた声でそう言った。





背中わせて






それは整備も程ほどに終わり、床にどっしり腰を据え、愛機・バスターを見上げていた時だった。

「サボり?」

後ろから聞きなれた少女の声がする。決して機嫌の良い時のものではない。
ムッとした声。

「そんなとこ」

否定せず、ディアッカはドリンクの入ったボトルを軽く掲げる。

「何? 用事?」
「だったら良いんだけどね」
「……?」

言葉の意味が分からず、振り向こうとした時だった。トスン、と言う音と共に、背中に重みと熱を感じたのは。
外ハネの髪が首筋にかかる。そのくすぐったさが、ディアッカに現状を教えてくれた。
ディアッカの背中に、少女が――ミリアリアが、背中をあずけている。

こんなこと初めてだ。

「……なんかあった?」
「……うん……」

不器用に甘えてくる少女に、ディアッカは優しい声をかける。
何度も見たことのあるミリアリアだ。泣きたいけど泣けない。爆発しそうな心。ぶつける場所が無い汚い気持ち。周りに心配かけまいと精一杯強がる姿を、ディアッカはずっと見てきた。

「アスラン・ザラと会った」
「……そっか……」

とうとうきたか――ディアッカは素直にそう思った。

アスランだって用事があればAAに来る。そう都合よくすれ違い続けることも出来まい。
特に彼の用事と言えば、おのずとブリッジが係わってくるものが多いのだから。

だからこそ、次の言葉に驚いた。

「食堂で」
「……あいつ、腹でも減ってたのか?」
「知らないわよ、そんな事」

ぷい、とそっぽを向くミリアリア。
ディアッカはというと……てっきり作戦会議云々による延長線上の鉢合わせだと思い込んでいたため、拍子抜けしてしまっている。

「サイとお昼ご飯食べようとしてたの」
「……へえ」

――そこに俺はお呼ばれされませんでしたか。

ランチの招待状が来なかったことに、ディアッカの心にひねくれたものが生まれる。

「そしたらあの人が……アスラン・ザラが来て……」

ミリアリアの声が重くなる。

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