「…………」
見慣れぬ光景に、ミリアリアはその場に立ち尽くしてしまった。ディアッカが食堂にいる。いや、それはいつもと何ら変わりないことなのだが……

「ディアッカ……」

食堂に入ったら、モルゲンレーテのジャケットを着た金髪少年の後ろ姿が目に入った。AAにおいて、このいでたちの人間は一人しかいない。

あんた、今日も人のシフトに合わせて休憩とったの? ――そんな文句が続く予定だった。



振り向くディアッカの顔を見るまでは。





意外だ…







「よっ。遅かったじゃねーか」

右手を『すちゃっ』と上げるディアッカの顔には、明らかにおかしいものがある。それはもう、新手の間違い探しじゃないかと思うほど分かりやすい異物だ。

「どーした? ぼーっとして。もしかして見惚れてる?」
「――バカ言わない」

ディアッカの茶目っ気口調で思考回路を復活させたミリアリアは、素晴らしく冷めた態度をとる。

もとい――とれた。

「……じゃ、似合ってない?」
「そんなことないけど……」

捨てられた子犬のような目で見下ろされ、押し黙るミリアリア。うつ向いたため、ほんのり赤くなった顔は、ディアッカに見られずにすんでいる。

本人、赤くなっていることに気付いていないが。

「良かったー。これ結構気に入ったからさ、変とか言われたらどーしよーかと思った」

言いながらディアッカは、いつも身に付けていないソレに指をかけた。

褐色の肌に乗る、縁無し眼鏡。

「……どうしたの? それ」
「ああ、サイが持ってたヤツ。ちょいと拝借してんの」
「サイの……」

そういえば、と思い出す。いつだったか、サイが持っている眼鏡コレクションを見せてもらったことを。
あの眼鏡はその一つか。

「……拝借?」

ふとディアッカの言い方が耳についた。

「あんたまさか勝手に――」
「なわけねーだろ!」

あまりの疑惑に、ディアッカはみなまで言わせず、打ち消した。

「アイツが言ったの! 気に入ったのあったら持ってって良いって」
「サイが?」
「そ、俺が」
『!!』

突然響く肯定の声に二人は驚き、視線を一点に向けた。
いつからいたのか、入口際にサイがいる。
彼は、優しい笑みを浮かべながら言った。

「それそろ整理しようと思ってたんだ。捨てるよりは、気に入った人に使ってもらった方がいいな、って。一回もかけてないのだってあるしさ」
「そう……」

途端にミリアリアの顔は曇っていった。
検討外れの疑いをかけてしまったことが、申し訳なくて。

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