その時、ディアッカは少しだけ苛々していた。 「くっそー……なんで俺がストライクまで……」 悪態つきながらも、彼がせっせと行っている作業は……ストライクの掃除。 中ではない。外、言わば外観だ。 PS装甲時なら白いフォルムで目立たないが、色を落とし、灰色に輝く状態では、その正体がはっきりくっきり具現化されている。 白い――ペイント弾の痕が。 「あーっ! なんでこいつ、こんなに強情なんだよ!」 拭いても拭いても、白霧状の痕は消える素振りをみせてくれない。 くたびれながら、ディアッカは隣に目をやった。 まだもう一機、白い落書をされた機体がある。 ――愛機・バスター。 「……いつになったら、あっちできんだよ……」 大きなため息をつくと、ディアッカは再び、ストライク磨きを再開した。 誓い そんな少年を、これまた呆れ眼で見つめる少女がいる。 言わずと知れたミリアリア嬢だ。 ただ今、正午を回って10分ちょっと。いつもならランチに誘うディアッカが来ないのを不審に思い、彼女は――色々自分に言い訳しながら――格納庫にやって来ていた。 そしたら何故かディアッカは、わき目も振らず、雑巾を武器にストライクと戦っている。 「……マードックさん」 「何だ? 嬢ちゃん」 「あれ何?」 「ああ……あれか……」 必死にストライク――いや、正確に言うと、ストライクにこびり付いたペイントか――と格闘するディアッカを『あれ』で済ませたミリアリアは、これまた頑張って掃除するパイロットを『あれ』で片付けてしまったマードックから、事の経緯を聞き出すことにした。 「一言で表せば、掃除だな」 「それくらい分かるわ」 「少佐が掃除を放棄してなあ」 「でも何でディアッカが?」 「少佐、急な会議が入っちまってよ…… で、昨日の模擬戦、あいつ負けただろ。だから替わってくれって」 「……………………」 途端にミリアリアの顔が、不機嫌なそれに変化する。 昨日の模擬戦はミリアリアも見ていた。 ムゥが言い出した、ディアッカとの模擬戦。 というのも、ムゥは多くの功績を残してはいるものの、MSパイロットとしては経験が浅い。そのため少しでもMS戦闘に慣れるため、訓練を兼ねた模擬演習を提案したのだ。 ストライクVSバスター。 つまりムゥVSディアッカ。 ディアッカに断る理由はない。 あっさり模擬戦は始まり、そこそこの緊張感あふれるバトルの末、勝者の栄冠はムゥが手にした。 MS初心者のムゥが、MSパイロットとして訓練を受けたディアッカを破った―― それはミリアリアにとって、好ましい結果ではなかった。 「模擬戦……物資不足で本物使うわけにもいかなくて、ジャンク屋から宇宙空間でも使えるペイントパーツ、結構無理言って買い取って戦ってよ」 「……そーなんですか」 実は裏では色々大変だったことを、今初めてミリアリアは知った。 「せめて外掃除だけでも自分達でやってくれって言ったんだ。それが条件だったんだが……」 事のはじまり、言い出しっぺのムゥは、会議を理由に逃げ出した―― ……笑えない。 「艦長は、知ってるんですか?」 「さあなー。この条件は俺らが提示したもんだし……あの艦長のこった。知ってたら少佐引っ張ってったりしねーだろ」 「ですね」 マリューは、約束事にはうるさい方だ。知ってたらきっと、ムゥはここに残す。 何だか……二人はディアッカが哀れに思えてきた。 「優しい言葉でもかけてやったらどうだ?」 「何で私が」 マードックの提案に、ほほを膨らませるミリアリア。 しかし足は、自然とディアッカの元へ動いていた。 |