「ええ……ええ、そうね。じゃ、それは……」

独り言のようなマリューの呟きが、ブリッジに響き渡る。
誰も何も言わないのは、みな、それが通信と分かっているから。

何か急ぎの用が出来たらしく、格納庫から通信が入ったのは、ほんの数分前のこと。
しかも珍しくマードックからで、通信を受けたミリアリアは、マリューに繋いだ後も通信機で話を聞いていた。


――何となく、興味があったので。


しかし、どうやらMSの装備等に関するものらしく、話はさっぱり分からなかった。


〈……よく分かんないや〉


理解不能で頭痛さえし始め、ミリアリアが通信機を外そうとしたまさにその時、


『ッどあああああ!』
「!!」


突然最大音量の叫び声が飛び込んできて、反射的に体が縮こまった。
声を直接受けてしまったため、耳が痛い。

マリューを見れば……耳から放した受話器を、何事かと眺めている。

「……どうしたの? 何か……」
『いや、あ……』

たじろぎながらも、マードックは説明しようとしたが――

『――にすんだよ、おっさん!』

響く怒号に、声はかき消された。


『おっさんじゃないって、一体何度言えば分かるんだ!!』
『ンなこたどーだっていい!』
『よくない!』


「……どうしたの?」

通信機を介して聞こえてくる男2人の怒鳴り合いに、マリューは呆れ顔で言い放った。

返ってきたのは――これまた呆れ風味なマードックの声。

『……少佐がオイルぶちまけて、坊主が全部引っかぶった』
「何やってるのよ……」

マリューと同じことを、同じタイミングでミリアリアも呟いた。

前者はムゥに対して。後者はディアッカに対して。


〈コーディネーターなら、ちゃんと避けなさいよ……〉


2人とも、完全に呆れきっている。


『あーもー……どーしてくれんだよ、エンデュミオンの鷹さんよお!』
『お前もコーディネーターなら、しっかり避けろ!』
『あんた、これで避けろってのか?!』


映像が無いので何とも言えないが……どうやらディアッカは、コーディネーターでも回避不能な状況に陥っていた――らしい。
……そう思っておいてやろう。


『ひっでー。おにー。これからどーしろってーんだよー』


声が投げやりなものに変わる。


〈少佐からかって、どーするのよ……〉


思わず大きなため息が出る。
その態度が、あまりにも自分に対するものと似ていたため、ミリアリアはそう思ったのだが。


『どーすっかーって……とりあえず着替えだろ?』
『あー……べとべと……』


……演技とかではなく、本当に投げやりになっているようだ。

『……で、艦長。話の続きですが……』
「あ、どこまで話したかしら」

マリューとマードック、2人の話が再開されても、ミリアリアは、その後ろからかすかに聞き取れるやり取りが気になって仕方なかった。

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