春 いつもいつも、あいつは突然やってくる。 「ちょっと、タオル貸してー!」 「え?」 その時ミリアリアは、支給された新しいタオルを各部屋に配るため、艦内を右往左往していた。 前方に集中しているのに、横から突然伸びてくる男の手。 それは彼女の手の中にあるタオルを無造作に奪っていく。 驚いて、無意識のうちに足は止まっていた。 一体誰だ……と考えるまでもなく、彼女の頭には、ただ一人の姿しか浮かばない。 「……ちょっと」 「あ?」 じろり、と見上げると、思い描いていた人物が、思い描いていた通りの表情で立っていた。 あさ黒い肌、金色の髪――バスターのパイロットこと、ディアッカ・エルスマン。 彼はタオルで汗まみれの顔を拭きながら、嫌味ったらしい顔でミリアリアを見下ろしている。 「……なんで怒ってんの?」 「当たり前でしょ? 危ないじゃない! いきなり手ぇ出して……転んだらどうするつもりよ!」 「俺がそんなヘマさせるわけないじゃん」 ディアッカはさらりと言い放った。 〈……どーゆー神経してんだ、この男は〉 本気でそう思ってしまうミリアリア。 「万が一にも怪我させたら、ちゃーんと責任とるから」 「結構よ」 あんたの言うことなんか、信じてやんない――そんな思いを視線に込める。 だけどディアッカはは怯まない。 「怒った顔もカワイイねぇ」 「お誉めにあずかり、ありがとうございます」 こういう輩は、まともに相手をしないに限る。ミリアリアは適当にあしらうと、すたすたと歩きだした。 まだまだやることは残っているのだから。 |