「……何だ? コレ」
全てはムゥの見つけた一枚のディスクから始まった。





ディアミリ・学園生活






「ディアッカ!」

呼ばれ、ディアッカは振り向いた。

――満面の笑みで。

彼は小走りで駆け寄ってくるミリアリアに、右手を上げながら囁いた。

「とうとう『先輩』取れたな」
「……もとい、エルスマン先輩」
「え、そこまで退化しちゃうの?!」

親しくなって二ヶ月。ファーストネーム+α呼びになって一ヶ月。
ようやく名前オンリーで呼ばれるようになったのに、一瞬で呼び名が二段階前に戻ってしまった。

もちろんミリアリアは冗談で言ったのだが、ディアッカの慌てぶりがあまりにも面白すぎて、

「退化も何も、ずっとこう呼んでますけど?」
「ミーリーアーリーアー」

ついついからかってしまう。
何せいつもは逆の立場だ。こんなチャンス、滅多にない。

二人は有名進学校、AA学園に在籍する現役高校生。
の割に制服のデザインが少々違うのは、ミリアリアが工学科でディアッカが得進科と、在籍場所が違うから。その上ディアッカは二年生で、ミリアリアは一年生。

本来なら全く接点のない二人が出会ったのは、全て友人達のおかげである。

ミリアリアの友人・キラと、ディアッカの友人(に分類されると思われる)・アスランは幼馴染同士で、互いに友人達を集めてテニスをしよう、という話がもち上がった。
元はキラが双子の姉とアスランを引き合わせるためのセッティングで、最初はディアッカも気乗りしなかったのだが、人望もあり、かつ、かなり歌のうまい某OB、M・I氏の圧力で、半強制的に、テニス大会という名の合コン会場へ連れて行かれたのだった。

今から考えれば、M氏には感謝しなくてはなるまい。
おかげでミリアリアと出会うことが出来たのだから。

一目惚れに近い恋――

押して押して、押しまくって――時に少し引いたりして、気をこちらに向けさせた。
告白して一ヶ月。返事はすぐじゃなくて良いと言ったが……

今彼女は、ディアッカの名を呼び捨てにした。
会話の流れではなく、自分を呼び止めるために。

期待もする。

いや、するな……という方がおかしいだろう。

「……ミリアリア」
「何ですか? エルスマン先輩」

彼女は調子を変えない。
このままミリアリアのペースに乗り続けるのも面白そうだが、それよりも確認したいことがあったので、会話の主導権を自分が握ることにした。

「すっごく期待してるんだけど」
「何のですか?」
「告白の返事」
「――――」

思った通り、彼女の動きは止まった。
顔を真っ赤にし、硬直するミリアリア。
こういうところが、ディアッカお気に入りポイントの一つだったりする。

「俺もう、一ヶ月くらい待ってるんだけど」
「え、だ、でも、いつでも良いって」
「限度がある」

本人、待つ気は大いにあるつもりだったが、こんな思わせぶりな態度を取られたら、そんな箍は簡単に外れてしまった。

――今、ミリアリアはどういう目で俺を見てるんだろう――

彼女の中で自分がどの類に分けられているのか、知りたくてしょうがない。
どうにか本音を引き出したい……考える内に、いつだったか――これまた某M氏が文化祭かなんかの打ち上げの席で言っていたことを思い出した。

曰く、
「お前の声って色っぽいよな。耳元で囁かれたら、大概の女は転ぶんじゃねーか?」
――らしい。

M氏は分野関わらず実力のある人間なので、信じて損はないだろう。
軽く息を吸って身をかがめ――

「教えてよ、ミリィ」
「そ、ソレ、反則……」

途端に彼女は顔を赤くし、身を縮め込ませた。

脈あり。

てーかM氏信じて本当に良かった。
まさか俺にこんな武器があったとは。

「どーしたの? 真っ赤だよ?」
「……分かっててやってるでしょ」
「なにがー?」

本当にコイツ、面白い。

「ほら、言ってみろよ……返事」
「わ、私……は……」

瞳を潤ませながら、彼女が答えを出そうとした時だった。

「……何やってんの?」

あらぬ方向から、思い人の声が響いたのは。

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