境界線 「……大分、下がってきたな」 「もう大丈夫よ」 「どこが大丈夫なんだよ」 言ってディアッカは、起き上がろうとするミリアリアに布団をかけた。 かれこれ三時間ほど前のこと。 ディアッカの目の前で、彼女は突然意識を失った。 風邪による高熱で―― 手の空いてる人間がすぐ見つからず、結果的にディアッカが、ミリアリアの看病をすることになった。 誰もいないなら俺がやる、と言い出したのだが……これがまたキツイのなんの。 何がキツイって――熱に浮かされるミリアリアが、素晴らしい色香を放ってくれるものだから…… 頭に浮かぶよこしまな妄想に、自分のことながら呆れてしまう。 本当にキツイのはミリアリアなのに。 そんなこんなで看病すること三時間、ようやく彼女は意識を取り戻した。 そしたらいきなり起き上がろうとして……冒頭のやり取りが始まったのである。 解熱剤を飲ませたおかげで微熱程度まで下がっているが、一気に熱を下げるのも、体にかかる負担は大きい。実際ミリアリアは、まだ起き上がれる状態にはなかった。それでも仕事に戻ると言うのだから、大した根性の持ち主だ。 方や、ディアッカは熱を出したことがない。ゆえにミリアリアがどんな状況か全く分からず、どう扱って良いものか、途方にくれてしまう。 とりあえず、まだ彼女を起き上がらせてはいけない、ということは分かった。だから布団から出る手を戻そうと掴み……固まってしまう。 改めて思う。 何と細く、白い腕だろう。 「……どうしたの?」 自分の手をとったまま固まるディアッカに、ミリアリアは不思議そうな目を向けた。 「あ……いや」 なんでもない、とディアッカは彼女の手をしまう。その歯切れの悪さは、ミリアリアを苛立たせた。 「はっきり言いなさいよ」 瞳を半分落とし、すごむ様にミリアリアが言う。返答に困り、目をそらしていたディアッカだが、戻したはずの白い手に、服を掴まれてしまった。 「ディアッカ」 「えーっとですねー」 結局、ミリアリアに勝てるはずもなく。 ディアッカは、再び現れた手を掴み、自分の手と重ね、 「違うなって思ってさ」 「何が」 「全部。どこもかしこも大違いだなー、と」 自分とは大違いだ。 男と女。 コーディネーターとナチュラル。 軍人と元学生。 同じところなど、どこにもない。 「まるで……線引きされてるみたいだ」 |