星空







昔、まだ小さい頃、きれいな月に憧れた。いつかあの大地を歩いてみたいと、願っていた。

そう言ったら――笑われた。



「ミリィって、夢見る乙女だったんだねー」
「うるさいそこぉ! 笑うな! どさくさにまぎれて愛称で呼ぶなッ!!」

肩を上下させ、ミリアリアは身体の奥底から思いっきり叫んだ。
食堂でのひとコマ。
キラ、サイ、ディアッカの三人と仲良く食事を楽しんでいたら、いつしか話題は、幼い頃の自分、というテーマになっていた。

だからミリアリアは、小さい頃憧れたものの話をしただけなのに、なぜだかディアッカは大笑いした。
どうやらツボに入ったらしく、水を持つ手も震えている。

「ミリィ……落ち着いて……」
「これが落ち着いていられますか!!」
「いやまあ確かに、全面的にディアッカが悪いけど……」

一緒にいたキラとサイは、初めて見る般若のミリアリア(一応サイは、似たようなものは見たことあるが)にたじろぎながらも、彼女の怒りを静めようと必死だった。

――あまり効果はないが。

「ほら、ミリィ……厨房のお兄さんも驚いてるよ?」
キラの一言で、ミリアリアの表情は正気のものに――

「そうだよミリィ」
「ディアッカあ!」

――戻ったのもつかの間、これまたディアッカの一言で般若ミリィが復活してしまう。

「ディアッカ、お前ちょっと静かにしてろ」
「あー? サイ……まさか俺だけ除け者にしたいわけ?」
「なんでそーなる……」

ディアッカを押さえる側に方向転換したサイだったが、いたずら心全開の大男を前に、一瞬で止める自信をなくしてしまった。

……そんなもの、元々無いか。

胸中でサイは呻いた。
そう。傍若無人なディアッカ・エルスマンを止める術など、サイは持ち合わせていない。
なら自分がミリアリアを静める側に回ればいいのだが、般若を通り越し、すでに人外のものとなりつつある少女を止める方法など、考えることすら出来なかった。

「ミリアリアさんたら、こーわーいー」
「あんた……一体何がしたいのよ!」
「だってミリアリアからかうと、面白いからさー」



言った。
言いやがった。
きっぱり、迷うことなく言ってくれた。

おかげでミリアリアも、ためらうことはなかった。

「一回宇宙に飛んでこいっ!」



めごっ!



食堂に、なんとも形容しがたい擬音が響き渡った――





「へぇー……じゃ、キラはヘリオポリスに来る前、月にいたんだ」
「うん。ただ、コーディネーターにはちょっと居辛い感じになっちゃって……」
「大変だったのねー」

前に聞いたことあるな、この話……とか思いながらも、サイはあえて黙っていた。
せっかくミリアリアの機嫌が良くなったのだ。ぶち壊す必要性はどこにも無い。

ちらり、と床を見やれば、頭に巨大なたんこぶを作り、撃沈するディアッカの姿。

「あー……星がきれいだ……」

ただ、ちょっとからかっただけなのになー……と、寂しげにつぶやくディアッカがいる。
本人的には、反応が可愛いから、少しだけ度を越してしまった程度の認識だ。
しかしやられた側からすれば、堪ったものではない。

ミリアリアの機嫌をうかがいながら――正義の鉄槌を甘んじて受けたディアッカを、キラとサイは少し……ほんの少しだけ、同情するのだった。




-end-

結びの一言
ミリィの鉄槌、ディアッカは避けようと思えば避けれてます。
あえて避けないディアッカさん(笑)

お題配布元→ディアミリストに30のお題

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