ふらふらする。
頭がふわふわ、身体がふらふら。
迷いと苦しみの邂逅。
でも、私を支える暖かい感覚が、不安を消し去り、安らぎを与えてくれる。
これは夢? それとも……





ディアッカ・エルスマン






宇宙に上がって、大分経って……この頃私は、何も変わらない現実に焦りを感じていた。

戦争が生み出す負の連鎖を断ち切るため、宇宙まで足を伸ばしたと言うのに……結局ザフトと連合の争いは、終わりを見せようとしない。
そんな現状が、私に言い知れぬ不安を与えてくれる。
このまま全面戦争に突入して、たくさんの命が消えてしまうんじゃないか。

トールのように……多くの命が奪い取られるのが怖かった。

誰にも感づかれてはいけない気持ち。
みんな戦いを止めようと必死なのに、私だけ、こんな焦燥感に囚われてるなんて……知られたくなくて。

そんな気分を抱えたまま、食堂まで飲み物をもらいに行ったら、ちょうど少佐や整備班の人達が、夕食をとっている所に出くわした。
瞳は無意識に、とある人物を探す。


〈って……なに探してるのよ、私……〉


整備の人達に混ざって、彼もいるんじゃないか……そう考えている自分に気がつき、頭を大きく横に振る。
思考回路から、あいつを追い出すために。

でも……あいつは居続ける。

「お、どうした? 嬢ちゃん」

カウンターで固まっていると、少佐が私に気がつき、声をかけてきた。見れば「来い来い」と手招きしている。
水をもらうと、私は少佐の向かいに座った。

「いえ……ちょっと考え事を」
「ほほう、それは興味ある……もとい、大変だな。どーだ? お兄さんに悩み相談でもしてみるか?」

少佐……せめてもう少し本音を隠してほしいんですけど。
ここまであからさまに面白そうなオーラ出されちゃ、相談する気も失せるわ。

……少佐に相談する気なんて、微塵もないけど。

「別に、大したことじゃないですから」
「ふぅん……」

なぜか、少佐の目がキランッ、と光った。
何? 私、変なこと言った?
考えながら水を飲んでると――

「ディアッカのこと考えてたか?」
「!!」

突然の指摘に、思わず吹き出しそうになる私。
えらい、よく耐えた。

「お。図星か」
「しょおさ……変なこと言わないで下さいよ」
「変か? 色恋沙汰で悩むなんて、別に普通だろ?」

……だから、私は別に色恋沙汰でなんて……しかも、何で私の恋の悩み=ディアッカになるの?
呻いて、少佐の顔を見て……気付いたことが一つ。

少佐の顔が、そこそこ赤い。

よく見るとテーブルの上には、酒瓶もある。
コップに注いである無色透明な飲み物、水だと思ってたけど、まさか……

「……酔ってます?」
「こんな度数の低い酒じゃ、酔えねーよ」

笑う少佐は……最早私の目には、酒酔い人としか映らなくなった。

「もっと強いやつ飲みたいんだけどなー」

言って切なそうに、ため息までつき始める。
きっと艦長に打診して、あっさり断られたんだろうな。艦長自ら、支給品の制限を厳しくチェックしてるから、個人的趣味で欲しいものとかって、全然入ってきてないし。

「とにかく、これ以上は飲まない方が……」
「悪酔いするってか?」
「はい」
「だから、ジュースみたいなもんなんだって……試しに飲んでみるか?」
「は?」

何を思ったのか――少佐は瓶を手に持つと、空になった私のコップに、お酒を注ぎ始めた。

「私、まだ未成年なんですけど……」
「未成年でも大丈夫な酒だから」

どんなお酒だ、どんな!!

……とは言え、興味がないと言えば、嘘になる。
せっかく注がれたものだし……一口くらいなら、飲んだって平気……よね?

一口だけ。ひとくちだけ。

その一口で――私の意識は暗転した。

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