AAのある一室の前で、ミリアリアは戦闘体勢に入っていた。
手にはホウキ、エプロン、三角巾に分厚いマスク、と装備は万全。
扉をにらめつけながら、彼女はゆっくり扉に手を伸ばした。





出撃!






「開かずの部屋ぁ?!」

言うなりディアッカは顔をしかめた。

「なんで戦艦に、ンなのあんのさ」
「知らないわよ、そんなこと」

憮然と言うはミリアリア。
彼女が言うには、AAには出港以来誰も立ち寄ったことの無い部屋、すなわち『開かずの部屋』なるものがあるらしい。
それが発覚したのが昨日というから……末恐ろしい話だ。


確かにディアッカが呆れるのも分かる。だが、ここまで態度に出されるとこう……面白くない。

「で? その開かずの部屋がどーしたのさ。まさか幽霊でも出た?」

からかう様に言うものだから、ミリアリアの機嫌も下降の一途をたどる。

「そんなの分かるわけ無いじゃない。まだ開いてないんだから」
「は? まだ?」
「そ、これから開けるの」

ディアッカは……どうやら話が見えてきた様で、どんどん顔色が悪くなっていく。
彼女がわざわざ仕事中の自分を呼び止め、コンテナ裏まで引っ張ってきた上で、こんな話を持ち出した理由が。


「つまり俺に、中を調べろと」
「そんなんじゃないわよ」


かなり自信はあったのだが、あっさり否定される。
ミリアリアはその場にしゃがみ込むと、床に「の」の字を書きながら言った。

「……その……ついてきてほしいな、って…………思って」

それはそれは愛らしく、ディアッカを見上げて。


ただ今の二人の状況をおさらいしよう。
格納庫の隅っこ、コンテナの裏っ側に連れてこられたディアッカは、それに身をあずけ、腕を組んだ状態で話を聞いている。一方ミリアリアは、大分低い位置から、彼を見上げて『お願い』している。


〈……かわいーなぁ、おい〉


自然とそんなことすら思わせるから、ミリアリアはすごい。

「艦長に、ディアッカ連れてって良いか聞いたら、良いって言ってくれたんだけど…………だめ?」

瞬間、ディアッカは喜びを隠すことだけに専念した。
数いる男共の中から、ミリアリアは自分をナイト役に選んでくれたのだ。これほど嬉しいことはないだろう。
ちょっと照れながら、頭をわしわしとかき――

「仕方ねぇなあ。一緒に行ってやるよ」
「良かったぁ。わざわざキラに頼むのも悪いと思ってたから……すごく助かる」

にこっと笑うミリアリア。
その無邪気な笑顔に、ディアッカは固まってしまった。

エターナルにいるキラの名が、なぜここで出る……?
嫌な予感に囚われながらも、勇気を出して聞いてみた。

「……ところで、何で俺なの?」
「実はね、さっきサイと一緒に行ってみたんだけど、扉が開かなかったのよ。どうやらさび付いちゃってるらしくて……。で、これは力持ちの出番だ、と」

ガラガラと、ディアッカの中で何かが崩れていく。

「入り口でこれだから、中も相当力仕事になりそうじゃない? だから――あれ? ディアッカ?」

ここまで流暢にしゃべって、ミリアリアはようやく、ディアッカがうずくまって青筋立てまくっていることに気がついた。

「どうしたの?」

心配そうに覗き込んでくるところからも、悪意が無いことが窺える。
悪意が無い分――つらい。

「あー……気にしないで」
「……うん」

やつれた顔で、ディアッカは手をひらひらさせる。
何となく、ミリアリアは不安になった。

「……一緒に行ってくれるんだよね?」
「それは任せて」

生気の無い返事がむなしく響いた。

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