一人寂しがる少女を慰めたのは、一人のサンタでした。


――聖なる夜に、奇跡は起きる――




「よしっ、と」


普段は一介の学生である少年、ニコル・アマルフィ。彼はこの聖なる夜だけ、もう一つの顔を披露します。
学生服を脱ぎ、黄色のサンタ服を纏ったその瞬間から。


「では、行ってきます」
「お気をつけて」


柔らかく微笑む歌姫、ラクスに見送られ、ニコルは――サンタイエ口ーは、夜空に飛び立つのでした。






【黄色いサンタと涙紅の少女】
―ニコル×フレイ―







静かに雪が降る中、とても大きなお屋敷の片隅で、一人の少女が寂しそうな顔をしていました。
彼女の名前はフレイ・アルスター。このお屋敷のお嬢様です。
今日はクリスマス。なのに、フレイの顔は晴れる様子を見せません。ボーっとして、ため息をついて……ずっとそれの繰り返しです。
そんな時、コンコン、と何かを叩く音が響きました。同時にフレイの身体は、びくんと震え上がります。

この屋敷には、今、フレイ一人しかいないのです。

使用人は皆、休暇を取っています。いえ、フレイが与えたのです。折角のクリスマスなのだから、家族や友人、恋人……自分の一番大切な人と過ごしなさい、と。
そして唯一の家族である父親は、プラントに出張中です。
誰もいない、たった一人のお屋敷なのに。


こんこん。


二度目のノックの音が響きました。フレイは怖くて身体をギュッと縮め……その一方で、音がどこから放たれているのか知りたくて、恐ろしげに目を走らせます。
彼女の目が、一枚の窓を捉えました。そこには紺色の空に白い雪がちらつく風景と――人影。ただの『人』ではありません。立ち位置的には「泥棒」と表現してもおかしくないような場所にいますが、「泥棒」とも思えませんでした。
一見すると、サンタクロース。
普通「赤」い部分が「黄色」の服を着た、とてもとても若いサンタクロースが、窓を叩いて微笑みかけます。

「どうしました? 何か、怖いことでもありましたか?」

深緑がかった柔らかそうな髪。自分とそうは変わらないであろう年代のように見える風貌。物腰柔らかく、とても落ち着いた少年という印象をフレイに与えたサンタクロースは、もう一度尋ねます。

「大丈夫ですか?」
「……あんた、誰?」
「サンタです」

それが、二人の初めての会話でした。


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