〜発端〜 何が起こったのか分からない。 どうしてこうなったのか分からない。 その人物は、少し離れた所から自分の家を見ていた。 とても大きな屋敷だ。街中から少し離れた所にある、木々に囲まれた大きな屋敷。自慢に値する広い庭で、今日は要人を呼んだ立食会が執り行われていたはずだ。現に――とても疲れた様子であるが――正装に身を包んだ何人もの人間を確認できる。 そして彼らと不釣り合いに、至る所で警察機関に所属しているであろう人間を確認できた。 何があった? その人物は、最初からパーティーに参加する予定だった。 用事が予定通りに終わっていれば、企画者である父の補佐として、この場にいた。 しかし、当の父の姿はどこにも見えない。代わりに、屋敷で働く執事を見つける。 「どうした? これは何の騒ぎだ??」 「……それが……」 訊いても、歯切れの良い答えが返ってこない。 苛立ちが募る。 「簡潔に答えろ。何があった。どうしてこんな騒ぎになっている」 「……れ、例の、『モノ』が……」 目を泳がせ、しどろもどろに。 「……全て、見つかり、……ました……」 言葉に詰まる。 声が出ない。 執事の様子と、決定的な単語の無い言葉で、彼は全てを理解した。 「……父はどうした。兄達の姿も見えないが」 「皆様、聴取を、受けております」 「どこで」 「……議事堂で……」 事の重要性と進行速度を把握し、拳に力を込める。 しくじった。もし自分がその場にいたら、ここまで大事にせずに済んだかもしれない。 そう考えると、用事を手早く片づけられなかったことに、後悔が止まらなくなる。 「この先、マズル家は、どうなるのでしょうか……」 「……分からない」 分かるはずがない。これはもう、その人物の手に負える次元の話ではない。 一般人以上の権力を持った家の人間とはいえ、社会に出てまだ数ヶ月の若者に、『例のモノ』について、どんなフォローをしろと言うのか。 後悔と悔しさで感情を満たし、我が家を見る。 立派な家だ。のどかな所に住みたがった母のため、父が改めて建てたマズル本鄭。思い出の沢山詰まった家に入ろうとしても、機関の人間に止められ、自由に足を踏み入れることが出来ない。 自分の家なのに。 「……しかし、どうやって『モノ』を見つけられたんだ? あれだけの面々を集めた立食会の最中に、査察が入るとは思えないんだが……」 「それは……」 落ち着いてきたのか、執事は経緯を事細かに話し始めた。 全てを聞いた唯一の家人は、「そんな」と呟きながら膝を落とす。 胸元で、ペンダントが揺れた。 正円の中に三角形と騎馬を模した家紋のあしらわれた、金色のペンダントが―― [〜約束〜] |