〜理由〜




その瞬間、ディアッカは飛びのいた。

「……何だ貴様、その反応は」

イザークが半眼でディアッカをにらむ。
そこはザフトの作戦会議室。隊員を集めたイザークは、新たな任務を発表しただけである。なぜここまで驚かれなくてはならないのか、理由がさっぱり分からない。
まるで異質な何かを見るような目をしていると、逆にディアッカは目を輝かせた。

「だって今、オーブ行くって言っただろ?」
「言ったな」
「オーブにはミリィがいるんだぞ?!」
「ああ、『ミリィ』か。スカンジナビア共和国にいるんじゃなかったのか?」
「あいつ、仕事が早いの。とっくに終わらせて帰ってるよ」

含みを持たせたイザークの言葉に、ディアッカはすぐさま答えを返した。

『彼女』の存在は、ジュール隊ではすでに周知の事実となっている。
ディアッカの思い人は、地球でジャーナリストをしていること。名前が『ミリアリア』で、愛称が『ミリィ』だということ。でも本人を前に『ミリィ』と呼ぶと、すこぶる怒られること、他沢山ありすぎるのでこの場は割愛。
ジュール隊にとっては要らない情報この上ないが、本人が積極的にネタをばら撒いてくれるため、今や彼らも『ミリアリア通』になってしまっている。

「オーブに戻ってるミリィと、これからオーブに行く俺……おっしゃあ! ミリィと会え――がッ!!」

喜びの雄叫びは、直後、苦痛のそれへと姿を変えた。
ディアッカの頭に刺さるバインダー。後ろに目を向ければ、少女が一人、さも何かを投げたポーズのまま、うずくまる男を見ていた。
シホ・ハーネンフース。ジュール隊の紅一点にして、数少ない赤服隊員である。

「うるさい」
「シーホー……」
「貴方に呼び捨てにされる理由はありません」

イザークに負けず劣らず、鋭い目つきでディアッカを見るシホ。
ディアッカに呼び捨てられたのが、たいそう気に食わないらしい。

「そもそも、我々は任務で行くというのに……最初っから観光気分って恥ずかしくないの?」
「恥ずかしい? ミリィに会える喜びを体全体で表現して、何を恥ずかしがれと」
「隊長! 良いんですか? こんな精神腐った奴、隊に入れておいて!」
「腐っ……おいおい、シホ・ハーネンフースさんよぉ。それはちょっとひどいんじゃないですか?」
「ひどい? どこが! 私、正しいことしか言ってないわ!!」

そんな二人のやり取りを見て――イザークは、頭を抱えた。
なぜこの二人はこんなに仲が悪いのか。
……いや、なぜシホはディアッカに必要以上に絡んで行き、ディアッカは必要以上に彼女を煽るのか。
幾ばかりか考え、大きなため息をつく。
考えるだけ――時間の無駄のような気がして。
イザークは、二人の事を気にしないことにした。
彼らのことは放っておいて、他の隊員達と向き合う。


「……ということだ。任務は評議員の護衛。皆、心してかかるように」
『はっ!』

ディアッカ以外の全員が、イザークに向かって敬礼した。
彼と言い合っていたシホまでもが。
彼女の変わり身の速さに、唖然とするディアッカ。



――思えばこの時から、ディアッカの受難は始まっていたのかもしれない――

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