〜突入〜




「何で俺が、貴様らの運転手などしなくちゃならないんだっ!!」
「そりゃ、お前が車用意して、お前が運転席に乗っていて、お前が行き先知ってるからだよ!!」

運転席と助手席で、苛立つ二人の言い合いが繰り広げられる。後部座席では、アスランがディアッカの言葉に無言でうなずき、キラは――きょとんとイザークを見ていた。


〈――で、彼は一体誰なんだろう……〉


キラとイザーク。
初対面ゆえの疑問である。

「ったく……使えない奴らだ!」

悪態をつきながら、イザークは速度を上げる。一刻も早く、見失った場所に辿り着こうと。

「でも……どうしてミリアリアとカガリが……」
「表向きには身代金目的だ」

キラの疑問にイザークが答え――ディアッカとアスランは、銀の運転手に驚きのまなざしを向けた。

「おい、イザーク! 何だよその『表向き』って!」
「何か掴んでいるのか?!」
「……貴様ら、まさか本当に、ただの身代金目的の誘拐だと思ったのか?」

イザークが奇怪なものを見るような目で呻くと、

『違うのか?』

嫌なユニゾンが返ってくる。

「……俺は悲しいぞ! 貴様らがそこまでバカだったとは……」
「何だと……?!」
「イザーク! こんな時まで、アスランにケンカ売るなって!!」

“バカ”の対象にはディアッカも含まれるのだが、ムカつく心を抑え、二人の仲裁に入る。
キラもまた、話を元に戻そうと、身を乗り出した。

「あ、あのさ、一応身代金目的で良いんだよね? 一体どれくらい提示されたの?」
「現金で五百億だ」
「…………ご、ひゃく、おく……を現金で?」

あまりの額の大きさに、キラは呆けてしまう。

「そんな額出されて、最終目的が金なわけ無いだろうが!」
「…………だね」

キラは――イザークに同意した。
アスランは、不思議そうにキラを見る。

「なぜそう思うんだ?」
「だって……そんなもの、どうやって運ぶの?」

それは根本的問題だった。五百億。それを現金で用意するとなると、どれだけの量で、どれほどの重さになるのか。
そんな単純なことすら見落としていたことに、ディアッカとアスランは言葉を失う。

「誘拐されたのが国家元首とはいえ……今のアスハ家に、一日二日で五百億を、しかも即金でなど用意できるのか? アスラン」

今度はイザークが、アスランに質問を投げかけた。
アスランは……無言のまま、うな垂れる。
分からない。『国家元首のボディーガード』という立場のアスランには、アスハ家の台所事情など専門外だ。

「本来なら、交渉で金額を小さくするのが妥当な手段だが……今回は、あまり意味を成さないだろうな。
 もし本当に金目当ての犯行なら……犯人はよっぽどのアホだ」
「だね。本当にお金だけが目的なら、カガリを狙うのはおかしいよ。四六時中、警護の目が光ってるんだから。アスランだって、側にいたんでしょ?」
「あ……ああ」

よくよく思い返せば、カガリはありえない状況で誘拐されている。
警備が厳重な議事堂の中で。
しかも――

「……しかもカガリは、議事堂の敷地内で誘拐されている」

あの瞬間を思い出し、アスランは声を震わせる。

「プラントから評議員が来ている今、厳戒態勢が引かれていたはずだ。なのに……」
「不審者が誰にも気付かれず、紛れ込む余地など無い」
「二つの入口は、確かオーブの警備班が24時間体制で警備してたよね?」
「ああ。直前に正門は完全に閉められた。ケール……門の警備班の一人が、鍵を戻しに行ったのも見た」
「じゃ、そいつが一番の容疑者か」

イザークが、キラが、ディアッカが、それぞれの立場で意見を述べる。
もう、唯一つの答えは導き出された。

「いきなり容疑者はないだろ。ケールはとても仕事熱心の、真面目な男だ」
「けど、あの二人のどちらかが繋がってれば、かなり簡単だぞ?」
「簡単か難しいかで判断してどうする!」

イザークから喝が入る。

「それより、もっと重要なことがあるだろうが」

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