〜恋々〜




一体、どれだけの時間が流れただろうか。窓も時計もない密閉空間に押し込められたカガリの体内時計は、完全に狂ってしまっていた。
今が夜なのか、日が昇ったのかすらも分からなくなっている。
心を蝕む、漠然とした不安に身を震わせながら、彼女は視線を斜め横に向けた。

少女が立っている。
カガリに背を向け、ひたすら金属音を鳴らし続ける少女が。

佇むは、ミリアリア。

カガリは――彼女を止められなかった。
……というか、あの絶対零度の微笑を受け、口を挟むことが出来るはずもなく……未だ彼女は、牢屋の鍵と格闘している。

「あいつだって、悪気があったわけでも無いだろうに……」

小さくもれるのは、自分じゃ何とも出来ない不安から生まれた、ただの八つ当たりの産物。
別に、ミリアリアに聞こえるように言ったわけではなかったが、狭い鉄格子内と静かな拘禁室。二つの要素が手伝って、カガリの呟きは、しっかり相方の少女へと届けられた。
ぴくり、とミリアリアの耳が動く。

「……じゃ、悪気がなかったら良いと?」
「いや、そういうわけじゃないが……」

思わぬ反撃に、カガリは口ごもる。

「ただ……可哀相かな、と」

それは、ディアッカに対しての同情か。
ならば寒空の下、延々待たされた自分は一体どれほど可哀相そうな人間なのか――聞いてみたくもなったが、不毛な言い争いに発展しそうなので、やめておく。
その代わり――

「……それだけじゃないわよ」

手を止め、カガリに目をやった。
切り出したのは、今どれだけ危険な状態に陥っているのか、カガリに自覚させるため。

「カガリはこの誘拐劇、どう思う?」
「どう思うって……言われても……」

『劇』という単語に引っかかりを覚えながらも、刺すような視線に目を合わせることが出来ず、うつむいてしまう。

「あいつらの目的は、金だ……だから」
「それだけじゃないでしょう」

ミリアリアは、きっぱり言い切った。
冷静にならなくても分かるくらい、この誘拐にはおかしな点がある。

「あのね、カガリ。お金だけが目当てなら、国家元首を誘拐するまでもないんじゃない?」

少し考えれば――いや、国政に携わるものなら、考えなくても分かることだ。
オーブには大企業がたくさんある。単純に金目当ての誘拐なら、そちらを狙った方が、遥かにリスクは低い。

――わざわざ国で一番警備の厳重な議事堂に侵入し、元首を誘拐するよりも。

「24時間体制で警護を受ける国家元首を狙ったのは何故? ……お金以上に考えられることがあるでしょう?」
「……国家転覆でも企んでるのか?」

ため息を混ぜ、もはや投げやり気味になっているカガリに、彼女は現実を突きつける。

「車は、敷地内にあったのかもしれない」
「……何?」

ミリアリアの言葉に、カガリはようやく顔を上げた。

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