〜追跡〜




接触――その一言に、対策室の空気は静まり返った。アスランに掴みかかっていたディアッカすら、呆然とシホを見ている。
おまけに、彼女が持っているのはディアッカの携帯だ。

「責任者を出せ、とのことです」
「そうか」

イザークは携帯を受け取ると、

「お前が誘拐犯か?」

何を思ったのか、突然犯人としゃべりだした。

《あんたが責任者か?》
「――そうだ」

スピーカー状態の受話器から聞こえてくる男の声に、正々堂々と答えるイザーク。

違うだろ――と誰もがイザークから携帯を取り上げたい衝動に駆られたが、下手に騒いで、この期を逃したくはない。その上、最高責任者であるはずのキサカが全く動かないのだ。声を出そうとした部下をたしなめていたりもする。

つまりキサカは、イザークに交渉を任せた、ということである。
それでも、何かあればすぐ代われるよう、イザークの横に移動した。

「確認しておくが、誰を誘拐したか分かってるな?」
《当たり前なこと聞いてんなよ》
「もちろん――危害は加えてないだろうな」
《元首は、な》

意味あり気に、男は言う。
とてもひっかかる言い方だ。これではまるで、カガリは無傷だが、一緒にさらわれたミリアリアには手を上げた――そう言ったも同じではないか。
誰にも聞こえないよう、イザークは小さく舌打ちをする。
予想以上に、状況が悪いかもしれない。
最悪、ミリアリアは捨て駒にされるのでは――イザークの中で、そんな計算式すら組み立てられてしまう。

「何故元首を誘拐した?」
《そんなの――金目当てに決まってるじゃねーか》
「額は」
《即金で五百億》

さすがに、会議室内にどよめきが起こった。
五百億。それが、一国家元首の命と引き換えとなる金額。

「……元首の声を聞かせろ」
《さっきの姉ちゃんには聞かせたが……》
「俺はまだ聞いていない。それとも、そこにいるのは偽者か?」
《……へいへい》

明らかにイラついた男の声、次いで――

《……みんな、すまない。私のせいで……》
「カガ――」

か細く聞こえるカガリの声。とっさにアスランは呼びかけようとしたが、眉間にしわを寄せたディアッカに止められる。

《これで満足か?》
「ああ。取引の時間と場所は?」
《金を用意する時間も必要だろう? 明日の昼まで待ってやるよ。じゃーな》

同時に――電話は切られた。

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