〜憤怒〜




「危ない!」

異変に気がついた時、彼女はカガリに飛びついていた。
飛び出す複数の黒い影。それはあからさまにカガリを狙っている。

「何だ貴様ら……!」
「元首さんに、ちょっと用があってねー」

現れた謎の男の言葉と同時に、あたりにエンジンの音が響いた。まるで男の声に呼応するように、黒いワゴン車が走りこんでくる。

「なんで――」

ミリアリアは目を疑った。
なぜ? どうして?? どう考えてもおかしな状況だが、疑問に答える者は誰もいない。
散り散りに警護にあたっていたSPの横をかすめ、車がミリアリア達の前に着く。

「どうする、もう一人――」
「面倒だ! 押し込め!!」

空気が凍る。
カガリを逃がさなくては――そう考えた時、すでにミリアリアは掴まっていた。成す術無く車に押し込められ、一秒かからず、カガリも車に入れられる。

「くそっ!」

アスランが銃を抜く。タイヤを打ちぬこうとするが、大半が外れ、当たった弾丸もあったが――特殊素材で作られているのか弾かれてしまい、車は裏口へと突っ切っていく。
こうしてカガリとミリアリアは、国家元首直属の秘書やSP達の目の前で、誘拐されてしまった。




残されたカガリ直属の部下たちの中で、群を抜いて冷静なのは一人の秘書だった。数時間前、ミリアリアの取材時間がおしたため、その場に割って入った、あの秘書である。彼はずっと傍にいた同僚と、先ほど合流した新人同僚に指示を出す。

「早急に、キサカ一佐に連絡を。追跡の方は――」
「もう手配している」

言葉通り、追跡用と思われる車が数台到着し、SP達が乗りこんでいく。

「……そういえば……アレックス・ディノはどこへ……?」

気がつくと、彼の目の前からアスランが消えていた。
車に乗り込んでもいない。あれほどカガリを大事にしている男が、この緊急事態にどこへ行ったのか。
そして不思議なことが起きている。SP達の乗った車が一台、発進しない。

「……どうしたんですか?」
「いや、代表の居場所を追跡しているんだが……全く動きが無いんだ」
「動きが無い?」

SPの持つ電子端末は、カガリの携帯の場所を示すGPS受信機だ。すでに車が発進して一分が経過しようとしているところ。なのに現在地は、この場になっている。

「まさか、故障……?」
「いや、故障とも……」
「――あ!」

二人が受信機とにらめっこを始めた時、ウームがキサカに電話している横で、もう一人の秘書が声を上げた。
誘拐されたまさにその場所にいた彼は、驚きの表情でベンチに駆け寄り、しゃがむ。

「どうした?」
「これ……」

立ち上がった彼の手には、シンプルなデザインの携帯電話があった。

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