〜心情〜




バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!

ミリアリアの心の中は、「バカ」という単語一色に染まった。
心配したのに……何かあったんじゃないかと、気が気じゃなかったのに。

「……何でこんな所に来てるのよ、私……」

家に向かって動いていたはずの足は、彼女を全く別の場所へと運んでいた。








受話器から聞こえる声は、どこかで聞いたことのあるものだった。けれど、どこで聞いたのか思い出せない。
分かるのは、電話に出たのがディアッカではない、ということだけ。

《誰だ、と聞いている!》
「だ、誰だ……って、」
《そもそも、さっきからうるさいぞ!! かけ直すなら、もっと時間を開けてかけ直せ!! ひたすら振動音聞かされる身にもなってみろ!!》
「待って待って、ちょっと待って!!」

相手の主張を的外れに感じながらも、ミリアリアには確認しなければならないことがあった。

「あの、これ、ディアッカの携帯、ですよね?」
《そうだ》

青年はきっぱり言い放つ。
ディアッカの携帯に出る、ディアッカとは別の人間……不安はいっそう増した。

「あなた誰? ディアッ……」
《それはこっちが聞いていることだ!》
「聞い――」

偉そうな物言いに、ほんの少し出た文句を飲み込んだ。
ふと、頭に該当人物が浮かんで。

ディアッカから聞いたことがある。彼の友人で現在の上司に当たる青年は、傲慢でわがままで自分勝手で偉そうでプライドが高くて思い通りにならないとすぐキレるから、いつもいつも尻拭いさせられて大変なんだ、と。
そんなことを言いながらも、ディアッカは友人を信頼しているようだったし、むこうも、ディアッカに並々ならぬ信頼を寄せているように思えた。
『彼』ならディアッカの携帯だって、手にすることが出来るだろう。

加えて、声。『彼』とは先の大戦中、モニタ越しの業務通信であったが、言葉を交わしたことがあるはずだ。

そう、ディアッカの友人。名は確か――

「あの、もしかして『イザーク』さん?」
「貴様、なぜ俺の名を……ん?」

声の主――イザークは、不審がりながらも何かに気づいたらしい。一拍おいてから、

《なんだ。お前が『ミリィ』か》
「え?」

今度はミリアリアが驚いた。イザークから自分の名前が出るとは思わなくて。
コールの長さにご立腹のようだった。きっと熱くなった頭で着信者も見ずに出、向こうの名を当てたことで冷静になり、ディスプレイを見た。そこには「ミリィ」とでも表示されていて……きっとそんなところだろう。

それでも彼の言い方は、胸に引っかかった。
まるで前から知っているように。

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