レイはいつも冷静沈着。彼が慌てることなどあるのだろうか。
それは、そんな興味から出た一言だった。


「レイの弱点って、何なんだろうな」


シンの放った一言が、全ての始まりだった。





【冷静人】






教室の中央で呟かれた言葉に、周りで休み時間を楽しんでいた友人達は、一瞬でシンを取り囲んだ。

「おいおい、レイの弱点なんか知って、どうするつもりだ?」
「何? そんなにレイに勝ちたいの?」
「あー、無理無理。弱点見つけたって、シンがレイに勝てるわけないって」
「〜〜そーじゃなくて!!」

ヨウラン、ルナマリア、ヴィーノに攻め立てられ、シンはたまらず声を張り上げた。

「ただ! ただ俺は、レイに苦手なものってあるのかなー……って思っただけで」
「……まあ確かに」
「レイが動じた所なんて、見たことないわよねー……」

天を仰ぎ探してみるが、ヴィーノもルナマリアも、見つけることが出来ない。


いつもいつも冷静なレイ。
何事にも動じず、静かな瞳で状況判断をするレイ。
弱みらしい弱みなど、見せた験しが無い。

「弱点か……大分前の幽霊騒ぎ(※【12.長い金髪】参照)の時は、全然平気そうだったし……」
「あ、雷も無反応だったよ?」
「虫とかどうかな……」
「レイが虫を怖がる姿ってのが創造できねぇ」

ルナマリアの思いつきに、即座にヨウランが「無い無い」と手を振る。
こうも全く見つからないと、俄然気になってくるのが人情というもので。

「一つや二つ、絶対あるわよ! レイだって、一応人間なんだから!!」
「そうそう! どんな人間だって、一つや二つ、駄目なものがあるはずだ!!」

何故か問題提議をしたシンではなく、ルナマリアとヴィーノが燃え上がる。
そして言われた。

「……どうでも良いが、せめて俺のいない所で話してくれないか?」
『あ』

忘れていた。
シンの隣の席で、堂々とレイが本を読んでいたことを。
冷や汗をかくシンとメイリン。ヨウランはどうでも良さ気な表情を見せ、ヴィーノとルナマリアは――


「で、どうなんだ?!」
「弱点ってあるの?!」


なかなか勇気のある二人は、本人に直接議題をぶつけた。
ここまで真っ正直に訊かれると思わなかったレイは、一瞬だけ目を点にし――

「そんなこと、正直に話すと思っているのか?」
「でも、苦手なものくらいあるでしょ?」
「さあ?」
「しらばっくれたって無駄ムダ。調べようと思えば調べられるんだから、観念して喋っちゃってよ」
「調べられる……ねえ」

それはある種の「挑戦状」だった。
こんなものを叩きつけられては、退くのも癪だ。

「なら、気が済むまで調べてみろ」
「望むところよ」

ルナマリアとレイの間で火花が飛び散る。

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