「来週行われる、第四期定例考査の問題が盗まれた」 朝のホームルーム・先生からのお知らせは、そんな重大事件で幕を開けた。 突然告げられた事件に、教室はざわつきを見せる。 「落ち着け落ち着け。まあ、驚くのも無理はないが…………お前らじゃ、ないよな?」 「せんせー、俺らのこと疑ってんのかよ」 シンが白い目で担任を見る。 だが担任も、白い目でシンを見返した。 「まあ、うちのクラスで一番疑われるとしたらお前だよな、シン」 「ひでぇっ! 担任のくせに、生徒のこと疑うのか?!」 「こっちだってなあ、下校までに生徒に確認しろって言われてんだよ!! タテマエでも訊かなきゃ職員室戻れないんだよ!!」 だんっ! と教卓を叩き、担任は嘆く。 「ただでさえ役員押し付けられて忙しいってのに……人の揚げ足取る暇あったら、ちったあ手伝え!」 「……この場合だと、どう手伝えば良いのかなあ……」 呟くメイリンに、担任は言い切った。 「やって無いなら『やってません』。やったなら『自分がやりました』。さ、どっちだ?!」 『やってませーん』 やる気無い生徒の声が、教室に響いた。 【確信犯】 「ひでえよな。何だかんだ言って俺らのこと疑ってんじゃんか」 「つーかあれは、ただ面倒くさがってるだけだろ」 「教師があんな投げやりに生徒問い詰めて、良いんだろうか……」 憤るシンの言葉に、呆れるヨウラン、ヴィーノが続いた。 ホームルーム終了後も、話題は『盗まれたテスト問題』で持ちきりだった。 盗まれたのは、月に一度行われる定例考査の筆記問題。実技・筆記からなる考査は一日がかりで行われ、その結果は卒業後の軍服の色にも関わってくるもの。 皆、良い点を取ろうと必死になる。 「でも、問題が無いってなると、来週の考査、どうなるのかな」 「作り直しじゃない? 同じ問題じゃ、さすがにまずいでしょ」 「同じだったら、盗んだ奴が一人勝ちだもんな」 シンがぼやくと、ルナマリアも「うんうん」と頷いた。 そう。問題を盗んで得をするのは、生徒だけ。だから真っ先に、生徒に疑いの目が向けられた。 ――と、シンの目が、一人つまらなそうに教科書を捲るレイに向いた。 「……まっさかレイが犯人じゃないだろうな〜?」 「テスト盗んで、丸暗記してたりして」 「くだらんな」 シンの冗談にヴィーノも乗ってきたが、レイはあっさり、わずか一言で切り捨てていく。 普段からノリの良い方ではないが、返答に丸みが無い。あるのは冷たさだけ。 この話題、レイは全くもって興味が無いらしい。 「……でも、本当に……どこにいったんだろう……」 ため息交じりに、メイリンが呻く。 この時は考えもしなかった。 盗まれたテスト問題。これが、あんな事態を巻き起こすなんて―― |