思い出は姿を変える。 その人、その思いの『質』の強さが、時に綺麗に、時に悲しく変化させる。 だから思い出は嫌い。 思い出なんて―― 「お姉ちゃん?」 「?!」 呼びかけられ、ルナマリアはハッと顔を上げた。目の前には、心配そうに覗き込むメイリン、そして手元に本を見つけ、今、自分は部屋で小説を読んでいた、ということを思い出した。 「どうしたの? なんか魂抜けた感じだったけど……」 「うん……これ読んでたら、入り込んじゃって……」 ルナマリアがメイリンに、本を見せる。 彼女が読んでいた小説、そのタイトルは―― 【悲しい想い出】 「……で、このどの辺が『悲しい想い出』なんだ?」 「シン、絶対ちゃんと読んでないでしょ!」 憤慨し、メイリンは小説「悲しい想い出」をシンから取り上げた。 とある恋愛物語。主人公の恋人に、別に好きな人が出来てしまった。最終的に二人は別れ、別々の道を歩く……というお話なのだが、 「だって俺、恋愛モノ好きじゃないし」 「つーかシンは活字が苦手なんじゃねーの?」 「どっちでも良いわよ! とにかく、読んで無いならごちゃごちゃ文句言わないで。お姉ちゃんなんて、感情移入して大変なんだから」 頬を膨らませ、メイリンはルナマリアを見る。頬杖をつき、切なげに窓の外を眺める彼女は――まだ小説の世界に入り込んでいるようだ。 「ルナも……こんな経験、したのか?」 「恋愛ってわけじゃないけど……お姉ちゃんさ、小さい時、とっても仲良かった友達と大喧嘩したの。しかもその子、直後に引っ越しちゃって……」 言いながら、メイリンはあるページを開いて見せた。 そこに書かれているのは、主人公のモノローグ。 「なんかね、この辺が重なるんだって。自分が思ってたことと」 「そんな繊細には見えないけどなー」 「…………」 ヨウランが茶化す中、ルナマリアを見るシンの顔が青くなった。一見すると、彼女を心配する図、なのだが……レイには分かった。 彼もルナマリア同様、「思い出」を頭に浮かべている。 そして、レイも。 「……あ、ねえ、レイは本、好きだよね」 話は、唐突に振られた。 見ればメイリンが、目を輝かせて眼前にいる。 「読んでみない?」 笑顔で突きつけられる本。 レイは……思わず受け取ってしまった。 |