天使の導き


「ま、こんな所をのうのうと歩いてるわきゃ無いな」

ドッグを傍観し、アネハは嘆息を付く。
不本意にもシン捜索にかり出されたアネハは、かなり適当に命令を実行していた。決して「探している」とは言えない態度だが、元々アネハに、本気でシンを探そうと言う気は無い。
なぜたった一人の侵入者――しかもまだ子供――のために、自分までこんな面倒なことをやらなければならないのか。
ライドンは、自分を軽視しすぎでは無いのか?

そりゃ、アネハ自身もライドンから見ればまだ子供。彼の家柄は軍属家系でありながら、これまで彼一人だけ、軍とは無縁の世界で生きてきた。MSに乗り出したのだって、海賊旅団に参入してからであり、まだ三ヶ月ほどしか経っていない。


〈そりゃ、レイが凄腕ってのは認めるけどよ……〉


それにしたって、団員暦は一応アネハの方が先輩なのだから、もう少しこちらの面目を考えてくれても良いと思う――と考えて、ふと、あるべきものが無いことに気が付く。

「……あ? そういえば……あいつ、どうしたんだ?」

この場にあるはずの、レジェンドの姿が無い。
先ほど新装備の話を受け、アネハは一番乗りで、ドックにレジェンド改式を持ってきた。これは格納庫で量産型MSの大掛かりな調整作業を行うための処置であり、レジェンドと改式は調整後も本日中はドッグに預け入れることになっている。その証拠に、MSが数機、場所確保のためドッグに避難されている状態だ。
――と、いうことは。

「おい、レイはまだ来ないのか?」
「まだだ。呼んでも全然応答無し」
「応答――無し?!」

顔をゆがめ、アネハはレイの部屋へコンタクトを取ろうとした。しかし全く反応が無く、アネハはライドンからの命令など頭から吹き飛ばし、彼の部屋へと走った。



予感はあった。
だからこそ、レイへの監視の目は強めていたつもりだった。



レイは、動く。
逃がす。
彼は、簡単に心を許すような人間ではないが、それでも、逃がす。


「おい、レイ!!」


扉を三度叩き、反応が無いため、備え付けのキーパットを弾いた。自動ロックの解除コード。それをアネハは、ライドンから教わっていた。

彼の部屋は、部屋であり、檻。
レイが逃げ出さないための、逃がさないための檻であり、どんなにロックをかけていようが、外から簡単に開けられる仕組みになっている。


「……だから言ったんだ!」


アネハは苦虫を噛む。
そこにはレイの姿も、そして囚われているはずのミリアリアの姿も無かった。







-ソラニマウヒカリ-
PHASE9−天使の導き







同時刻、太陽が頂点にたどり着く頃、プラントのある一角で、大掛かりな作戦が始まろうとしていた。
プラント五本の指に数えられる一大企業・デュッセルカンパニー本社のすぐ傍で。
その中央には、ジュール対の面々もいる。

「――時間だ!」

イザークの号令と共に、それは始まった。





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