生きるための選択


「シンの奴、なかなかしぶといな」

ライドンは呻く。
一枚の和やかな家族写真を眺めながら、零すのは冷笑。

「全くどうして、あいつは生き続けるのか……」

悲しみと同時に、憎しみが巻き起こる。
そう、これはシンに向けられる感情。
彼はシンが憎かった。憎くて憎くて仕方なかった。





――でもあれは、しようが無かったんです。デストロイに乗ってたのは、ステラだったんだ……あの子は、戦いたくもないのに、無理矢理乗せられて――





シンの言葉が蘇り、ライドンは奥歯を噛み締める。

無理矢理戦わされて。
その結果、沢山の命が奪われたのは、しようの無いこと?


悪ふざけも良い所だ。
シンも……それに、デュランダルも。


もう、誰を信じることもしない。
信じられるものなど、どこにもない。


「……次はしっかり、殺してやらないとなあ?」


写真に語りかける。しかし写真の中の家族連れは、無邪気な笑みを浮かべるだけ。
その中心にいる、自分もまた――……







-ソラニマウヒカリ-
PHASE8−生きるための選択







「――っくしゅッ!!」


むず痒くなる鼻と、引き起こされる自然の摂理。
その瞬間、シンはくしゃみの衝動を抑えようと頑張ったが、我慢しきることは出来なかった。手で鼻と口を覆い、身を隠して周りを見回す。
どうやら、気付かれた節は無いらしい。

「危ない危ない。気をつけねーとな……」

一人呟きながら、眼下を見下ろす。
シンがいる所から、その内部は一望できた。
地下に地下に、ひたすら通気口を抜けて降りた先は、デュッセルカンパニーがプラントの「外」増築した倉庫兼製造工場。俗に「外郭」と呼ばれる場所で、プラントに根を張る大企業のほとんどは、限りある生活圏を保全するため、製造ラインや資材置き場等を宇宙に造り、そこと企業をバイパスで繋いでいる。だから、デュッセルカンパニーに外の工場があったとしても、なんら問題は無いのだが。
少しだけ、気になってしまう。
もう一度、辺りを眺める。見えるのは大きな工場群と、生活感の感じられる宿舎のような建物。これではまるで、工場の中に工場を作っているような状況だ。

「つーか、広いよなあ……さすがMSの外部製造企業」

デュッセルカンパニーは、多くの事業に力を注いでいる。その一番の矛先が、MSの製造・販売だ。
まさにザフトは、お得意先の最大手。しかし乗ってる当人達は、実際、MSがどうやって造られていくのかを見る事は、ほとんどない。知らないで乗っている人間の方が、圧倒的に多いだろう。
不思議に思いながらも、これくらいの規模は仕方ないのかと考え――思いふけった。


忘れてはいけない。デュッセルカンパニーは、宇宙海賊と繋がっているのだ。彼らの資金源の可能性もあれば、MSがドゴラに売られている可能性も非常に高い。
シンはきゅっと胸元を掴んだ。
ライドンのことで深く悩むと、心臓に痛みが走る。
と――



「おい、いたか?!」
「いや……くそ、あのガキ、どこに隠れたんだ?!」



聞こえる大人の声に、シンは身を強張らせた。
軍属の本能が、己の気配を断つ。





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