冷たい銃声


声が聞こえた。

澄み渡る声。それはまるで、深海の囁き。




――だいじょうぶ――




励ます声。
見守る声。




――だいじょうぶ――




何度も何度も、響く声。
夢の中で、現実の狭間で、君は会いに来てくれる。


その微笑が、少しだけ、俺に勇気をくれるんだ――







-ソラニマウヒカリ-
PHASE5−冷たい銃声





少女が眠る。
隔離された部屋で、たくさんのチューブやケーブルでその身と機械を繋げられながら、穏やかな寝顔を見せていた。
ぴくりとも動かないまつげを、窓越しに、イザークは見守る。
早く――早く目覚めてくれ、と願いながら。

「イザーク」

静かな廊下に、ディアッカの声が響いた。彼はカツン、カツンと靴音を反響させながら、のんびりとイザークの横に立ち、そして同じく窓を眺める。
窓の奥の、シホの姿を見つめる。

「どーよ」
「変わらん」
「そーか……」

この一週間、彼女は一度も目を覚ましていない。搭乗していたレベッカは、半壊させられた上、もう少しでコックピットに穴が開くような状態にまで陥っていた。
機体を回収した整備班は、生きていることが不思議とすら言い放った。

「無茶するからなあ、あいつ……」
「…………」
「んな顔すんなよ。ただで死ぬような女じゃねーだろ、シホは」

いつ頃からだろう。軍人は、命を投げうってでも命令を全うすべき存在。戦死は軍人にとって名誉なこと――そういう考え方だったイザークが、命令よりも、「命」を大切にするべきだと考えるようになったのは。
自分がザフトに戻った時には、もう、変わっていた気がする。


「いや、シホも……か」


腕を組み、ディアッカは言った。

「安心しろ。俺も、あいつも、みんな簡単に死んでやんねーよ。俺達は、まだまだ隊長殿に迷惑かけまくる予定なんだから、どっちかっつーと、自分の心配してた方が良いと思うぞ?」
「言ったな?」

ディアッカの悪態に、ようやくイザークは笑みをもらした。
余裕綽々。恐ろしいほどの強気加減。俺様主義の微笑みは、ディアッカに安心感をもたらしてくれる。


これでこそ、イザーク・ジュール。


「そろそろ司令室行こうぜ。呼び出した本人が遅刻しちゃ、部下に示しもつかねーだろ」
「……それもそうだな」

ディアッカに促され、ゆっくりイザークはその場を離れる。
名残惜しそうな足音は、ひどく悲しい唄にも聞こえた。





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