プラントの鼓動 「そんな顔、なさらないで下さい」 一人檻の中に閉じ込められる歌姫は、格子から手を伸ばした。 白い指は、一足先に自由を――足かせつきの自由を与えられた、騎士の頬に触れる。 「自分を責めないで下さい」 歌姫は、昔、自分だけの騎士だった男を、優しく慰める。 「分かっていたことです」 「だが……!」 「こうなる覚悟で、私はこの地に戻ってきました」 やらなくてはならないことがある。 みんなに伝えなくてはならないことがある。 そして……自分の心の問題もある。 「アスラン、どうか私よりも、プラントのことを……この星のことを考えてください。私には、MSを奪うことが、彼らの真の目的とは思えません」 「だが、それをナチュラルの仕業と見せかけ、戦争を起こすつもりだ――という説は説得力があるぞ? 分かり易い証拠をたくさん残しているし……」 「本当に、そうでしょうか」 歌姫は天井を仰ぐ。 見上げても、あるのは灰色だけ。 それはまさに――咎人の空。 「戦争を起こし、平和な世にあぶれてしまった兵器の価値を上げる……確かに、暗躍しているのが彼らなら、その理屈も通じます。MSや機密を解析すれば、新たなMSや機密を立ち上げ、自衛と称した兵器群が作られ、現状では、また地球との間に、いらぬ緊張が起こる……それも分かります。けど、それだけでしょうか」 「何が言いたいんだ? ラクス」 赤の騎士は――アスランは、挑むように答えを求めた。 彼女は一体、何に勘付いているというのか。 「断言は出来ません。ですが、引っかかるのです。彼らの求めている『物』が」 「もの?」 「彼らが求めているのは、MSだけでは無いのでしょう?」 「あと、機密の書かれた書類関連と、議長の――……」 そこで、アスランは息を呑んだ。 いや、まさか。 話を飛躍させすぎだ。 そんなこと、考えてもいけないことだ。 しかし、ラクスは追い撃ちをかける。 「人を先導する場合、先に立つ人間は、考えうるべき最悪の事象を想定しておかなければなりません」 強く、力強く、ラクスは問う。 「アスラン。貴方が手に入れた『ギルバート・デュランダルの手紙』には、何が書かれていましたか?」 歌姫の指摘に、アスランは言葉を失った。 -ソラニマウヒカリ- PHASE4−プラントの鼓動 |