運命の交差


辺りがオレンジ色に変わっていく。
もうすぐ夕暮れが始まる時刻、二人は――マリューとムウは、プラントのとある住宅街を歩いていた。


「もう少しね……」
「だな」


緊張から、マリューはムウの手に自分の手を回し、彼は応えるよう、ぎゅっと握る。
不安が募る。
けど、これは果たさなくてはならない『約束』。
そう。二人は、ある約束を果たすためにプラントにやって来た。



人伝に交わされた、大事な大事な約束のために――







-ソラニマウヒカリ-
PHASE17−運命の交差







「…………え?」

ディアッカから指定された病院についたキラは、何も考えられなくなってしまった。
一瞬ふらりと身体がふらついたが、一緒に着いてきたアスランに支えてもらいながら、ベッドに座るミリアリアを見る。

「……ごめんね、キラ。でも、キラしか浮かばなかったの……遺伝子関連って」
「や、そんなこと、気にしないで……」

と言いながら、キラは激しく動揺していた。


友人が、遺伝子障害を発症するかもしれない――


「キラ……」
「……とにかく、何を打たれたのか調べよう」

急ぎ、キラは白衣に着替えた。
オーブ使節団の護衛としてやって来たキラ。それはもちろん、使節団が何者かの急襲を受けたときの『保険』ある。一応階級的には上層に位置するが、政治に関わっているわけではない。
彼が今行なっている仕事は、遺伝子研究。
彼の本当の両親である『ヒビキ博士』が行なっていた遺伝子研究を受け継いだのである。資料はメサイアやオーブに保管されていたものを使い、そこに最新の研究データを組み合わせている。

『ヒビキ博士』の研究は、結果として多くの悲しみを生んだ。
その償いをするには、どうしたら良いか。
彼らの『子供』として、自分に出来ることはないか。
考えた結論が、これだった。
自分も、遺伝子の研究をする。
そしてそれを、苦しんでいる人達の役に立たせよう、と――




一方、同病院には、戦闘で傷ついた軍人が、次々と搬送されていた。その中には、ミネルバの中で治療したメイリンと、直後に倒れたレイの姿もあった。
簡易検査ではあるが、メイリンの状態は安定したらしいと聞き、付き添っていたルナマリアは安堵のため息をついた。
問題は、レイである。診断を終え、病室から出てきた医師は、廊下で待っていたシンとルナマリアに、心痛な面持ちで首を横に振った。
声にならない悲鳴を上げるルナマリア。シンは泣きそうな顔で、医師に問いかけた。

「どうにも、ならないんですか?」
「今の状況では、なんとも……もしデュランダル議長がご存命なら、また違ったんだろうが……」

シンは悔やんだ。
どうにも出来ない自分。何も出来ない、無力な自分。
また。
また、すぐ傍で、大切な人が死んでしまう――

「……ああ、そうだ」

何か思い出したように出た医師の声に、シンはハッと顔を上げる。
多大な期待を前にした医師は、申し訳なさそうに、かつ訂正するよう言った。

「いや、そんな大したことじゃ……ただ、特別病室に、遺伝子研究をしている人が、来たとか来ないとか……」
「特別病室だな?!」
「――シン!!」

ルナマリアが制するよりも早く、シンは弾丸のように飛び出していった。





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