伝説の嘆き


「……なんだったんだ? 今の」
「……さあ」

話しかけられたミリアリアは、ディアッカを見ず、小さく返した。
二人の見るモニタには、シン達の姿が映っている。その場には、少し前までライドンの姿もあった。
彼は、自分たちを見て――正確には、自分達が見ているカメラに向かって、曰くありげな言葉を残していった。

「迎えに行くって……もしかしてお前、狙われてたり?」
「知らないわよ」

ミリアリアは口を尖らせる。そんなディアッカとミリアリアの気持ちを代弁するように、モニタの中では、シンがレイに詰め寄っていた。


《なあ、レイ……今の、何の話だ?? ミリアリアさんに何が……》
《奴は何もしていない。彼女はずっと、俺の部屋に閉じ込めておいた。何も出来る隙はなかったはずだ》

言ってレイは走り出す。

《あ、待てって、レイ!!》
《お前達は来るな。足手まといだ》


冷たく残して走り出るレイを、そのまま送り出すシンとルナマリアではない。
来るなと言われても、足手まといと言われても、一人で先になんて進ませられない。二人はどちらからともなく、部屋をかけ出て行く。


その様子を、ミリアリアは複雑な心境で見守っていた。
レイの言葉に、全く安心出来ない。
不安がある。
何も出来る隙が無かった――訳ではない。ミリアリアは、その唯一ともいえるチャンスに目星を着けられる。
そして、腕の痕。
ぎゅっと、あの部分を握る。
ミリアリアは気付いていない。その不安と戦う表情を、その腕の痕跡を、ディアッカがしっかり見ていることに。
そして、レイ達の居場所が別のフロアに移動した頃、別のモニタには、暗闇の中を手探りで降りる、メイリンの姿が映し出されていた。







-ソラニマウヒカリ-
PHASE15−伝説の嘆き







ひょおおおおおお……
まるでビル風のように吹き荒れる風に耐えながら、メイリンは一人、下層部を目指し、足を進めていた。
そこは道ならぬ道。太い配線の密集地帯を、手探りに降りていく。
正面切って進んでは、捕まえてくれと言っているようなもの。ゆえにメイリンは、ミネルバを降りてから、ずっとこの巨大な閉鎖空間の中にいた。
一本の筒のようなパイプライン。たくさんのケーブルが軒を連ね、少し降りては壁に扉を見つける。全階層ごとに、この空間への非常通路が確保されているのだろう。おかげでメイリンは、自分がどれだけ下に降りているのか、把握することが出来ていた。

「……そろそろ、だと思うんだけど……」

見取り図と自分の距離感覚、そして扉とすれ違った数からして、この近辺で間違いないと思われる。
メイリンはゆっくり扉のほうに動き、一度深呼吸をして、静かにドアノブに手をかけた。



――誰もいませんように――



それだけを願いながら。
出来るだけ音を立てないように、鉄製の扉を開けていく。
その先に、周りに、人の姿も気配も感じることは無かった。人はおろか、物さえも。

「……え?」

壁が、はるか遠くに見える。
行き着いた先もまた、筒のような部屋だった。ただし、ここにあるのは、壁にそうように走る、螺旋の階段のみ。上を見ても天井は見えず、下を見ると遠くに、床。


手すりは無い。


「うそッ……!!」

慎重に歩かないと――と思った矢先だった。
がくん、と体が下に向かう。
足を踏み外してしまった。


「きゃあああああっ!!」


反響する悲鳴とともに、メイリンは階段から落ちていった。





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