紅乙女 時は一週間前まで遡る。 ――ルルルルル。 「はーい、はいはい!!」 家の掃除に没頭していたルナマリアが電話に気づいたのは、着信から数秒後のことだった。彼女は大慌てで電話をとると、ほぼ同時に顔をしかめる。 「……どうして、あなたがこの番号を……」 《ザフトの情報網を、甘く見ないほうが良いぞ》 「ザフトって、あなた――」 思わず、ルナマリアは声を張り上げた。 「……あなたはまだ、軍事裁判にかけられてるんでしょ……? なのに……」 《一昨日付けで仮釈放になった。今はザフトに在籍する身だ》 それこそ信じがたい話だ。 彼は二度の脱走罪に問われ、国家反逆罪すら適応されかねない存在なのに。 《明日、暇か?》 「……用事は特に無いですけど……」 《なら、ザフト寮に来てくれ》 「行く理由は何ですか? 私、とっくに除隊してるんですけど」 《明日で……三ヶ月だ》 「――!!」 電話の主が紡いだ『三ヶ月』という言葉に、彼女はカレンダーを凝視した。 赤丸がついている。 三ヶ月目の証。 ――シンが姿を消してから―― 《明日、シンの部屋を片付けなければならない。君も……立ち会いたいんじゃないかと思って》 「そりゃ……」 行きたいとは思う。だがルナマリアは――前述したように、既に除隊した身なのだ。おいそれと、ザフトの寮になどいけるはずは無いが―― 《君が寮に入れるよう、許可は取ってある。来てくれないか?》 「……あなたがそこまでする理由は何ですか?」 不審に思ってもしょうがないこと。 彼が、自分にここまでしてくれる理由が分からない。 すると、彼は言った。 《……もう一つ、君に打診したいことがあってね》 苦笑交じりに彼は言った。 《ザフトに戻る気はないか?》 「――――」 あまりのことに、ルナマリアはその意味を理解できなかった。 -ソラニマウヒカリ- PHASE2−紅乙女 晴れ渡る空の下、真剣な面持ちで歩くルナマリアの目に、大きな建物が映る様になって来た。 そこはザフトの寮。入隊した者達は、基本的に、二人一組で部屋を使う。 三ヶ月前まで、ルナマリアの居住区もここだった。もちろん、メイリンと同じ部屋で。 だがルナマリアにとって、この寮にあまり思い入れは無い。何せ入隊した直後にミネルバに配属となり、その後――進水式もしないまま、かの船は戦地へ赴くことになってしまった。 あの寮で過ごしたのは、一体何日くらいだっただろう……とルナマリアは考える。 メイリンも連れて来たら、少しは感慨深いものがあっただろうか。 きっと、無い。頭をよぎった一瞬の思いを、彼女は即座に切り捨てる。本当に、思い出らしい思い出が無い、苦い記憶しか残らなかった寮にたどり着いたのは、待ち合わせ時間を10分ほど過ぎてからのこと。 その入り口に、彼女をこの地へ誘った男がいた。 「久しぶりだな」 「ですね」 彼の名はアスラン・ザラ。 昨日、突然彼女に電話をしてきた上、ルナマリアに――復隊を進めた男である。 |