贖罪の唄


「日曜日に仕事なんて……ついてないねえ、ヴィーノ」
《仕方ないじゃん。軍人なんだから。それに、日曜にも働く仕事なんか、そこら辺にたくさんあるって》
「そーだけどねー。なんか、優越感?」
《うー……そう言われると悔しい……あ、ヨウランが呼んでるから、切るわ》
「うん、じゃ、後でね」

ピ、と電子音を響かせ、メイリンは電話を切った。
雲の隙間から照りつける、痛いほどの暑い日差し。今日は一日中晴れるらしい。夕方からは、ルナマリアやヨウラン、ヴィーノ達と一緒に、外で夕飯を食べる予定になっている。
ただ、欲しい物があるので、食事会の前に買い物をしよう――そんな思惑もあり、メイリンは、かなり早めに家を出た。
鼻歌混じりに街中を歩く。
と――

「きゃっ」
「あ、ごめんなさい!」

前をよく見ていなかったためか、一人の女性とぶつかってしまった。
互いに「すみません」と繰り返し、頭を何度も下げ、そのまま別れる――人ごみに入ると、時々かち合う光景であった。
ただそれだけ。それだけのこと。しかしメイリンの中で、この『事件』は大きな印象を残した。
去っていく女性が、懐かしいメロディを口ずさんで。
彼女が紡いだのは、今や囚われの身となった、歌姫の代表曲。


それは、これから起こることを予言するかのごとく――……







-ソラニマウヒカリ-
PHASE12−贖罪の唄






「……それは、本当なのか?」
《こんな嘘言ってどーするよ》


電話越しのディアッカは、呆れたように声をもらした。
そう、アスランの携帯に、ディアッカから電話がかかってきたのである。その内容は、決して頭を冷静にして聞いていられるものではなく。
他人に聞かれるわけにもいかない、恐ろしい企み事。


《どーすんだよ、アスラン》
「どーするって……どうも出来ないだろ」

言ってアスランはうな垂れる。


「……暗殺計画が持ち上がってるのに、こんな茶番、やってられるか」


それが本音だった。
この審議は馬鹿げている。失敗するリスクの方が高いというのに、どうして議長代理はこの方法で強行しようとするのか、彼は理解に苦しんでいた。
プラントには、ラクスを議長に、との声も大きい。そのためにクルゾフは、止む無く『代理』の位置に甘んじていると言ってもおかしくない状況だ。

客観的に観れば、ラクスを一番邪魔に思っている人間である。

それに、ザフトへ圧力をかけすぎている。顕著な例が、大破した『エルザ』と『レベッカ』を修復させ、再び戦場に送り出させた一件だ。
作用が完全に解明されたわけでもないのに、『Lシステム』を止めるための切り札とされる二機……通常ならまず、ありえない。
それこそ、議長命令でも出ない限り、上層部は首を縦に振らないだろう。
Lシステムの件にしても、彼は何かを知っている。知った上で、何かを起こそうとしている。
彼は――何を企んでいる?

「さすがに『茶番』は酷くないか? アスラン・ザラ」

その声に、アスランは身体をびくんと震わせた。
議長代理への不審感が募る中、背後から、等の本人が声をかけてきたのである。


聞かれた。
クルゾフに。
そして、その後ろに佇む――ラクスに。





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